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『今様擬源氏』「四十五」「橋姫」「田原藤太秀郷」「竜女」


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絵師:芳幾

落款印章:一恵斎芳幾画

【翻刻】

橋姫の 心を汲みて 高瀬さす 棹(さほ)の雫(しづく)に 袖ぞみれける

橋姫

三上山の百足出て神龍をなやますとて秀郷が途中に龍女来りたのみてむかでを退治せしむ 龍女は悦びかぎりなく龍宮より   

梵鐘及米俵をおくりけると


【登場人物】

田原藤太秀郷…実在の人物、藤原秀郷。平安時代中期の武将。

龍女…龍神が大蛇の姿に化身したもの。

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【題材】

源氏物語五十四帖(宇治十帖の始まりの巻)の「橋姫」と、俵藤太の百足退治の話を題材にしている。


[橋姫]あらすじ

 世間から忘れ去られた古宮がいた。源氏の異母弟、八の宮である。彼は若いころ政争にまきこまれ、そのまま失意の人生を生きてきた。北の方を早くに喪い京の邸も焼亡したので、みずから宇治の山里に退き、大君・中の君の二人の姫君を男手ひとつで養いながら、在俗のまま仏道修行にいそしむ身となっている。

 薫は冷泉院に伺候する宇治の阿闍梨から、この八の宮の俗聖ぶりの噂を聞いて、やがて親交するようになる。もともと道心を抱えこんだ薫なればこそ、この宮に強い関心を抱いたのである。

 親交三年目の秋、八の宮の留守中に訪れた薫は、月下に合奏する姫君たちをかいま見て、その美しさに心惹かれた。翌朝、大君と歌を詠み交した薫は、思慮深い彼女に思慕の情を抱く。無常の世の憂愁を慰め合える交誼を、とも願うのである。のちに八の宮が薫に、自分の死後、姫君たちの将来を託したい由を語り、薫もこれを承諾した。またこれに前後して薫は、八の宮家に仕える弁という女房から、実は自分が柏木の子であることを聞かされ、柏木の女三の宮あての古反故をも渡された。
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                                                         ―『源氏物語ハンドブック』 鈴木日出男 1998 三省堂 より


[俵藤太の百足退治]あらすじと説明

 近江国勢多の橋に一匹の大蛇が横たわっていた。橋を渡っていた俵藤太は臆せず大蛇を跨いで通る。大蛇は実は竜神の化身で、竜神からその勇気を見込まれた俵藤太は、三上山の大百足を退治してくれるよう頼まれる。弓矢の名手である俵藤太はみごと大百足を倒し、大蛇から御礼として、使っても尽きない巻絹、米の尽きない俵、いくらでも食べ物が出る鍋をもらい、さらに竜宮に招かれて黄金の太刀・鎧や赤銅の釣鐘を贈られる。そして竜宮の加護で朝敵の将門を倒すことができた。

        ※勢多の橋(せたのはし) 瀬田の橋。滋賀県瀬田川に架かる橋で、旧東海道を通って京都に入る入り口にあたる。

                                                         ―『昔話・伝説必携 特装版』 野村純一 1993 學燈社 より


 俵藤太の伝説は、室町時代の御伽草子「俵藤太物語」、絵巻「俵藤太絵巻」により広く親しまれるようになった。また、「太平記」や「今昔物語集」の説話などが組み合わさって、俵藤太の百足退治の話が生まれたと考えられる。ゆえに、いくつもの類似した話が存在している。

【関連作品】

 また、俵藤太の百足退治を題材とした浮世絵として、東海道五三対「草津」が挙げられる。本文の内容からも、同一のものを題材としていることがわかる。登場人物も田原藤太と龍女であり、瀬田の唐橋の有無などを除いて、非常に類似している作品である。→U0051

 『和漢百物語』では、龍女を後ろにかばい、弓の弦に矢をあて、襲来する大百足を狙う田原藤太の姿が見られる。これは、『太平記』「三井寺合戦并当寺撞鐘事俵藤太事」に載っている俵藤太が龍に頼まれて百足を退治する話の内容と類似している浮世絵である。俵藤太が瀬田の唐橋で出会った大蛇に化身した龍女(姫)とともに、龍宮城に赴き、妖怪の姿となって現われた大百足に矢を射るという『太平記』に記載されたシーンを描いたものであると考える。

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【和歌】

 この『今様擬源氏』「橋姫」に書かれている和歌、「橋姫の 心を汲みて 高瀬さす 棹の雫に袖ぞみれける」は『源氏物語』の橋姫巻に登場する「橋姫の心を汲みて高瀬さす棹の雫に袖ぞ濡れぬる」という、宇治から帰った薫が姫に贈った歌を擬えとものであると考えられる。典拠となった『源氏物語』の和歌は、宇治の姫のお気持ちを察すると、舟の棹の雫が舟人の袖を濡らすように私も涙で袖が濡れてしまいます、という意味である。ここでいう「橋姫」とは、具体的には宇治の姫君をさしているが、「橋姫」というからには「橋姫伝説」が念頭にあるとしなければならない。

                                                        ―『国文学解釈と鑑賞 源氏物語の鑑賞と基礎知識』参照

【橋姫】

 柳田国男のエッセイ(橋姫)によると、「大昔われわれの祖先が街道の橋のたもとに、祀っていた美しい女神のこと」だと書かれている。また、『日本奇談逸話伝説大事典』には、「宇治川のほとりにいた神。嵯峨天皇の時代の鬼女が神として祀られたものをいう。」とある。それに加えて、『広辞苑』では、「橋を守る女神。特に山城の宇治橋にいう。⇒宇治の橋姫。」とある。

 「橋姫伝説」としては、説話的性質と口承文学としての性質を持っているため、さまざまな内容の説話が残っている。近世の文芸の多くは、鬼女伝説として取られている場合が多い。




【考察】

 浮世絵『今様擬源氏・橋姫』は、小説『源氏物語・橋姫』の登場人物、事物に縁のあるものなどの、いくつかの「共通点」をもとにして、描かれた作品である。こういったいくつかの「共通点」を考察する。

①水辺の守り神としての「橋姫」

 『今様擬源氏』では、琵琶湖の守り神であった龍女が瀬田の唐橋とともに描かれている。『源氏物語』では、和歌に「橋姫」という語句が登場し、薫は宇治の姉妹(大君・中の君)を橋姫にたとえたとされている。『源氏物語』の橋姫巻の内容からすると、鬼女としての橋姫ではなく、神秘的な宇治川の女神として用いられたと考える。また、宇治の橋姫に護られた姫君たちであったとも考えられる。

②琵琶
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 『源平盛衰記』倶巻第二十八経正竹生島詣并童琵琶事の条に、琵琶湖の竹生島で、弁才天が琵琶の妙音に感応して龍の姿になって現れたという内容の記述がある。この記述からも、琵琶湖には古くから龍神が住むと考えられていたことがわかる。『今様擬源氏・橋姫』では、琵琶湖に住む龍神一族の龍女が登場し、舞台となっている近江国(瀬田)からも「琵琶湖」が連想される。それに対して、『源氏物語』橋姫巻に登場する宇治の姫君に関する記述にも、これに関連した部分があることに着目する。


    …(前略)姫君に琵琶、若君に箏の御琴を。まだ幼けれど、常に合はせつつ習ひたまへば、聞きにくくもあらで、いとをかしく聞こゆ。(後略)…

                                                                             ―『源氏物語』「橋姫」より

 この原文の箇所からは、父、八の宮が大君には「琵琶」、中の宮には箏の琴を教えていたことがわかる。この「琵琶」という語句も共通する点といえるのではないだろうか。


 豊国作の浮世絵『源氏物語五十四帖』橋姫には、大君らが琵琶を奏でている様子を薫がかいま見る場面が描かれている。また、この姫君たちの背景にも、宇治の橋と思われる橋が描かれており、橋の描写も重要視されていることがわかる。これには、橋の守り神(橋姫)の存在を暗示する効果があると考える。

 

古くから、橋には必ず橋を守る女神(橋姫)が存在するという思想・信仰があった。この『今様擬源氏』についても、瀬田の唐橋を描くことによって「橋姫」の存在を暗示している。『源氏物語』の宇治の橋姫と、瀬田の唐橋の橋姫はどちらもそれぞれの作品の中では主題として取り上げられていない。「琵琶」という語句も、作品には登場しているが、目立って重要視されるワードではない。しかし、それぞれの作品を読み、観ることによってその存在が暗示され、二つの作品を結ぶキーワードとなっていると考える。

《参考文献》

『原色浮世絵大百科事典 第4巻(画題-説話・伝説・戯曲)』鈴木重三執筆 大修館書店 1981年11月

『日本説話伝説大事典』志村有弘、他 勉誠社 2000年6月

『日本奇談逸話伝説大事典』志村有弘 勉誠社 平成6年

『図説・龍の歴史大事典』笹間良彦 遊子館 2006年3月

『昔話・伝説必携 特装版』野村純一 學燈社 1993年

『国文学解釈と鑑賞 源氏物語の鑑賞と基礎知識』鈴木一雄、他 至文堂 平成11年

『源氏物語ハンドブック』鈴木日出男 三省堂 1998年

『橋と遊びの文化史』平林章仁 白水社 1994年

『一目小僧その他』「橋姫」柳田国男 小山書店 1934年


国立国会図書館貴重書画像データベース http://rarebook.ndl.go.jp/pre/servlet/pre_com_menu.jsp

宇治市観光協会HP http://www.kyoto-uji-kankou.or.jp/