説話(道成寺)

提供: ArtWiki
移動: 案内検索

総合

●『大日本国法華経験記』(長久年間<1040〜44年>叡山首楞厳院、鎮源の撰)

 巻下第百廿九「紀伊国牟婁郡悪女」

 <梗概>

 老僧と美しい若い僧が熊野参詣の途中で、牟婁の郡のある寡婦の家で宿をとった。女は二人の世話を良くした。その夜女は若い僧の元を訪れて「始めて見た時から夫にしようと思った」と迫ったが、若い僧は宿願の熊野権現を目前にしてそんなことは出来ないと言って拒否をする。しかし女は諦めないので、熊野参詣を果たした後帰り道に家に寄って意に従うことを約束して家をたった。それから女は様々な用意を整えて約束の日を待っていたが若い僧は一向に訪れない。待ちわびて道端の人に尋ねてみると二人は三日程前に既に帰ったことを告げられ、裏切られたことに気付いた女は大いに怒り寝床に入って籠居する。やがて五尋(約7m~9m)の毒蛇の姿となって僧を追いかけた。僧は大蛇が追いかけてくることを聞き、慌てて道成寺に逃げ込み事情を説明して鐘の中に隠してもらう。大蛇は尾で鐘のある戸の扉を破り、鐘を囲み巻いて尾で竜頭をたたき続けるが、やがて血の涙を流しながら走り去った。鐘は蛇の毒によって焼かれて炎が燃え盛っていたので、水をかけて冷やし、僧を見てみたところ焼き殺されて骨もなくわずかに灰と塵が残っていた。その後、道成寺の老僧の夢に大蛇が現れて、自分は鐘の中に籠居した僧であり女と夫婦になって蛇の姿となっていることを告げ、自力ではこの苦しみから逃れられないので私達の為に法華経を詠んで助けてほしいと懇願した。老僧は目を覚ましてからその通りにすると、ある夜に僧と女が夢に現れて、法華経の力によって邪道を離れ女は忉利天に僧は兜率天に昇るようになったと言ってそれぞれ別れて空に昇ったという。法華経を経礼すれば、みんな成仏できるのである。



●『探要法華験記』(久寿二年<1155>四月、慈悲寺の僧源西の撰)

 巻下第四十一

 『大日本国法華経験記』とほぼ同文であるが、末文の漢詩はなくなっている。



●『今昔物語集』

 巻第十四第三「紀伊国道成寺僧写法花救蛇語」

 内容は『大日本国法華経験記』とほぼ同じであり、会話文なども含めて細かく物語っている。話の終わりでは法華経の力を讃美する内容が書かれ、女の悪心は強いものであるから女に近付くのは避けるべきであると語り伝えている、と締めくくる。また、二人の僧は女を恐れて別の道から帰ったこと、女が憤怒して寝床に入り籠居した時そこで死んだことを記している。



●『元亨釈書』(元亨二年<1322>、臨済宗の禅僧虎関師錬の撰)

 巻第十九 願雑十之四 霊恠六「(一)安珍」

 内容は『大日本国法法華経験記』とほぼ同じであるが、書き出しに「釈安珍は、鞍馬寺に居り」とあり若い僧の名前と出身が見られる。他に異なる点は、「女の家の前を素通りして」急ぎ足で去って行くこと、法華経の讃美の文が省かれていることである。『大日本国法法華経験記』同様、女が死んだとは直接書かれおらず「一宿を過ぎて、蛇となる」と記す。





<参考文献>

『往生伝 法華験記』、岩波書店、1974年9月25日

相賀徹夫『道成寺』、小学館、1982年11月1日

『新編日本古典文学全集35 今昔物語集1』、小学館、1999年4月20日

『続神道大系 論説編』元亨釈書和解(三)、神道大系編纂会、2005年3月3日