花筐

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はながたみ


画題

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解説

東洋画題綜覧

能の曲名、大跡部の皇子に仕へた越前あぢまの里の照日前、皇子との御別れを悲しみ物狂ほしくなつて都に上つたが、真心が通つて再び召さるゝに至るといふ筋、清次の作である。

「時しも頃は長月や、まだき時雨の色うすき、紅葉の行幸の道の辺に、非形をいましめ面々に、行幸の御先を清めけり、「さなきだに、都に馴れぬ鄙人の、女と云ひ狂人と云ひ、さこそ心は楢の葉の、風に乱るゝ露霜の、行幸の先に進みけり、「不思議やな、其さま人にかはりたる狂女と見えて見苦しやとて、官人立ちより払ひけり、「そこ去き給へ「あら悲しや君の御花筐を打落されたるとかや、あら忌まはしの事や候ふ、「いかに狂女、持ちたる花籠を君の御花筐とて渇仰するは、そも君とは誰が事を申すぞ、「事あたらしき問事かな、此の君ならで日の本に、又異君のましますべきか、「我らは女の狂人なれば、知らじと思し召さるゝか、かたじけなくも此君は応神天皇五代の御孫、過ぎし頃まで北国のあぢまと申す山里に、「大跡辺の皇子と申しゝが、「今は此国玉穂の都に「継体の君と申すとかや、さればかほどにめでたき君の、御花筐を恐れもなさで、「打ち落し給ふ人々こそ「我より猶物狂よ、「おそろしや世は末世に及ぶといへど、日月は地に落ちず、まだ散りもせぬ花筐を、あらけなやあらかねの、土におとし給はば天の咎めも忽に罰あたり給ひて、わが如くなる狂気して、共に物ぐるひと、いはれさせ給ふな…。

これを画ける作

伊藤竜涯筆  『花筐』  第十一回文展出品

(『東洋画題綜覧』金井紫雲)