立役.

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総合

歌舞伎(かぶき)劇の役柄の一種。広義では女方に対する男性の役、または男の役を専門に演ずる俳優の総称だが、狭義では敵(かたき)役に対する善人の壮年・中年男子役をいう。本来は立方(たちかた)ともいって、舞台で座っている地方(じかた)(音楽演奏者)または囃子(はやし)方に対し、立って演技する俳優の意味だったが、のちに女と子供の役を切り離して大人の男の役だけをさすようになり、さらに敵役、老(ふけ)役(親仁(おやじ)方)、若衆方(わかしゅがた)、道外方(どうけがた)などを除く善人の男子役に限定されるようになった。  細分すると、演出法や役の感覚から、荒事(あらごと)(師(し))、実事(じつごと)(師)和事(わごと)(師)、武道(ぶどう)、和実(わじつ)などの種類があるが、この場合「師」をつけると、これを得意とする俳優のことになる。武道とは武芸を見せる役、和実とは和事の味をもった実事の意味である。また劇中で迫害や苦難をじっと堪え忍ぶ役を「辛抱(しんぼう)立役」とよぶこともある。 [松井俊諭]

”立役”, 日本大百科全書(ニッポニカ), ジャパンナレッジ (オンラインデータベース), 入手先<http://www.jkn21.com>, (参照 2011-06-13)


①能、狂言や歌舞伎で、舞台にすわっている地謡方(じうたいかた)、囃子方(はやしかた)に対し、立って演技する役。立方(たちかた)。 *わらんべ草〔1660〕一「幕をあぐるに作法あり。立役の分はもろまく上べし。はやしの衆はかたまく少上る。地うたひは自身幕」 女歌舞伎禁止以後、女形(おんながた)・子役以外の男役の総称。 *俳諧・西鶴大句数〔1677〕一〇「金鍔に心底とをす暮の月 岑の八重霧立役をして」 *人倫訓蒙図彙〔1690〕七「立役(タチヤク) 一切男の役をなすを立役といふなり」 *浮世草子・西鶴置土産〔1693〕三・一「京にて立(ヤク)勤めし嵐三郎四良が白むくの上にやれ紙子身をやつし」 *歌舞妓事始〔1762〕二・役者惣名目「立役は、狂言の立芸(たてげい)をする故の名なり」

②歌舞伎で、男の善人の役。また、敵役(かたきやく)に対して善の側の人物の総称として用いる。 *評判記・役者評判蚰蜒〔1674〕秋田彦三郎「一芸にしをらしき所はあれ共取入ておかしげのすくなければとかくまるぐちのどうけよりも広袖のみせを引て半どうになり、立役半ぶんの芸をさせたき事や」 *浮世草子・御前義経記〔1700〕八・二「立役(タチヤク)、敵役(かたきやく)、道化(だうけ)、花車、おやがたと衣までをかへてかぶきをはじめ」 *難波土産〔1738〕発端「歌舞伎の役者なども兎角その所作が実事に似るを上手とす。立役の家老職は本の家老に似せ、大名は大名に似るをもって第一とす」 *談義本・身体山吹色〔1799〕二「敵もあそこさへして居れば能(よい)けれど、近年は立役(タチヤク)ばかりする」 *歌舞伎・茶臼山凱歌陣立〔1880〕四幕「敵役の局、立役(タチヤク)の局心々のこなし」

③歌舞伎で、実事師など、壮・中年の善人の男役。また、多く一座の幹部が演じるところから、幹部俳優をさしていう。たて役者。 *古今役者大全〔1750〕一・立役・敵役・実悪・悪人形之事「立役といふ事は、全体女形の外は、実事仕、てき役、道外まで一くるめの号なれども、自然とそのかしらにたつ故、実事仕の事のみになれり」 *談義本・根無草〔1763~69〕前・二「先立役・荒事・角かづらにての一枚看板、手力雄神」 *歌舞伎・浮世清玄廓夜桜〔1884〕序幕「憎まれ口をきくにも及ばぬ、こいつあ一番立役(タチヤク)で中へ入って扱ふ方が、何れもさまにも憎がられず」

”たち‐やく【立役】”, 日本国語大辞典, ジャパンナレッジ (オンラインデータベース), 入手先<http://www.jkn21.com>, (参照 2011-06-13