福富草子

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ふくとみそうし


画題

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解説

東洋画題綜覧

御伽草子中の一篇で、富んで清廉な福富の長者と、貧しくして心横しまなる乏少の藤太とその妻との物語で、福富の長者には、身に生れついたる芸があり、習はざるに奇特をあらはし測らざるに名を発して世の人神の如く思つてゐるが、『其の芸あさましくいぶせければ上中下の人までも、よく聞き知りて笑ひを催す』程であつた、乏少の藤太これを羨しく思ひ、妻の鬼姥に勧められて、福富の長者を訪ひ、その薬を分けて貰ひ、今出川の中将のもとにてこれを試み散々に失敗する、その一節を引く

今出川の中将、若き殿にて興じ給ふとも知りたるにや、かしこに行きてしか/゙\と案内す、中将殿いと興あることかな此の間は鬱気にて学問を怠り在しつるに、いとよかむなりと、かのほくせう御庭に召させて、鞠のかゝりに円座据ゑて、あつもの大御酒とり/゙\饗応し給ひて御階近う出で坐して今やと御耳を傾けて在す、御簾の内に御妹の内侍のかみ、祖母の尼前、御台所、各集ひ在しける、藤大腹は痛けれど、食物にのみ心入りたる、をかしや、さもしや、あまり腰の引つり腹の痛むに堪へずして立出でむとしけるが、取り外して、さとはらし侍れば水弾の如し、白洲はさながら山吹の花散り敷きたるやうにて井出の簗もかくやらむと思す、俄かに風吹き立ちて御殿も御階も匂ひ満ちて浅ましといふ許りなし、挑尻を据ゑて走り逃げむとしけるを座敷の随身下りたちて笞杖振り上げて打ち伏せり。

これが二巻の絵巻に画かれ、左記三点が世に伝へられてゐるが、絵巻の詞書には、福富の長者が高向の秀武、乏少の藤太が福富となつてゐる。

土佐隆成筆  京都妙心寺蔵

同      同 春浦院蔵

土佐光信筆  秋元子爵家旧蔵

(『東洋画題綜覧』金井紫雲)