沼河比売
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ぬなかわひめ
画題
画像（Open）
解説
東洋画題綜覧
『古事記』に現はれた神代伝説の美人、八千矛神の比売の許に通ひ、歌の問答をすること上巻にある。曰く
此の八千矛神、高志国の沼河比売と婚に幸行しゝ時、其の沼河比売の家に到りて、歌ひ曰はく
八千矛の、神の命は、八島国、妻覓ぎ不得て、遠々し、越の国に、賢し女を、有りと聞かして、麗し女を、有りと聞こして、真結婚に、在り立たし結婚に、在り通はせ、太刀が緒も、未だ解かずて覆面をも、未だ解かねば、処女の、鳴すや板戸を、押ぶらひ、吾が立たせれば、引づらひ、吾が立たせれば、青山に、鵼は鳴き、さ野つ鳥、雉は響む、庭つ鳥、鶏は鳴く、慨れたくも、鳴くなる鳥哉、此の鳥も、打ち病めこせね、いしたふや、天馳せ使、事の、語り言も、是をば。
爾、其の沼河比売、未だ戸を開かずて、内より歌ひ給はく
八千矛の、神の命、萎草の、女にしあれば、吾が心、浦渚の鳥ぞ、今こそは、千鳥にあらめ、後は、平和にあらむを、命は、莫死せ給ひそ、いしたふや、天馳せ使、事の、語り言も、是をば。
青山に、日が隠らば、烏玉の、夜は出でなむ、朝日に、咲み栄て来て、栲綱の、白き腕、沫雪の、手弱る胸を、静叩き、叩き互抱い、真玉手、玉手差纒き、股長に、寝はなさむを、あやに、勿恋詔し、八千矛の、神の命、事の、語り言も、是をば。
此の歌問答を画けるもの、平福百穂の作がある。
（『東洋画題綜覧』金井紫雲）