歌舞妓年代記続編

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「高ふはムり升れど是より口上を以て申上奉升る当芝居御取立御ひゐきあつて初日よりかよふに永当/\と御見物に御来篭なし下され升る段中村勘三郎は申上るに及ず惣座中いか計大慶至極難有仕合にぞんじ奉り升る扨申上升るは尾上菊五郎儀にムり升る私とは兄弟の事親共松緑より内縁もムり升て年来厚き御ひゐきなし下され斯様にうるわしき御尊顔を拝し難有仕合にそんじ奉升る扨先達八月中が頃にもムり升ふ菊五郎方より急にあいたきよし申遣ましたるゆへ私も取物も取あへず参り升たる処に当人申升るにはイヤ外の事でもない段々と重る年どふぞ足手のたつしやナ内最早当顔見世を一世一代と致たいから外ならぬ貴様より年来御取立に預り升る御高恩の御礼口上申上呉とかよふに申升るゆへ私も当惑仕江戸役者中むら歌右衛門始岩井杜若市川団蔵関三十郎其外若手の衆中よりも今両三年も見合呉升るよふ種々様々といけん申升たれ共菊五郎申升るはイヤそふでない老少不定又は御見物様方へ無礼等之なき内とたつて申升るゆへ其心得におり升たる処に当人義御存知の通り当九月舞台に置升てよほどのけがを仕中々出勤もおぼつかなく家内の者も泪にむせびおり升たる折から有夜うつら/\夢のよふに高祖日蓮大菩薩の霊夢に預かり日に増全快仕升たるも全く祖師の御利益と難有仕合にムり升扨尾上菊五郎弥々一世一代を仕是より寺島へ引籠り升て松の隠居親共の名をつぎ升て松緑と改名仕四季折々の草花も御らんに入奉り度春はつゝみの花ざかり夏は涼の御遊山船秋は殊更隅田の月冬は翁のほつくの通りいざさらばゆき見にころぶ処迄とチトアノ辺へ御遊山の節は菊五郎素人に成升たる姿どのようふで有ふと御立より下され升るよふ願上奉升るわけて願上奉升るは菊五郎義は一世一代を仕り升て己が好の植木を友と仕り升る段は身に余る大慶跡に取のこされ升た私本の木から落た白猿なぞは中々一世一代なぞと申事は出来ませぬ是より若手衆中へ打交り杖にすがり升てなり共とつ百年も御見物様方の御目のじやまを仕升る様にムり升るあまり長口上は御たいくつ先は尾上菊五郎一世一代の御披露且は当顔見世日数ムり升ぬゆへ早朝より大入大繁昌の御願恐なから角から角までずいと左よふに思召下され升ふ」