桜川

提供: ArtWiki
ナビゲーションに移動 検索に移動

さくらがわ


画題

画像(Open)


解説

東洋画題綜覧

謡曲の名、東国の人商人、日向に下つて桜子といふ少年を買取り、其文と身代とを母の許に持行くと、母はこれを受取り読んでゐる間に人商人は行方を晦ましてしまつた、母は我子を尋ねやうと心も狂乱しつゝ東国に下り、常陸の桜川に流るゝ花などすくひなどしてゐると、桜子は磯部寺の住僧の弟子となつて折しも花盛なので師僧に伴はれ桜川に来て図らずも母にめぐりあひ、遂に名乗りあふて故郷へ帰るといふ筋で、作は元清、シテは狂女、子方桜子、ワキ僧、ツレ人商人、同里人、所は常陸桜川である。一節を引く。

「それ水流、花落ちて春とこしなへにあり、「月すさましく風高うして鶴かへらず、「岸花紅に水を照らし、洞樹緑に風を含む、「山花開けて錦に似たり、澗水たゝへて藍の如し、「面白や、思はずここに浮かれ来て、「名もなつかしみ桜川の、一樹の陰一河の流れ、汲みて知る名も所から、あひにあひなば桜子の、是又他生の縁なるべし、「実にや年を経て、花の鏡となる水は、散りかゝるをや曇るといふらん、まこと散りぬれば、後は芥になる花と、思ひ知る身も扨いかに、我も夢なるを、花のみ見るぞはかなき、されば梢より、あだに散りぬる花なれば、落ちても水のあはれとは、いざ白波の花にのみ、馴れしも今は先だたぬ、悔いの八千度百千度、花に馴れ行くあだし身は、はかなき程にうちやまれて、霞を憐れみ露を悲しめる心なり、「さるにても、名のみ聞きて遥々と、「思ひ渡りし桜川の、波かけて常陸帯の、かごとばかりに散る花を、あだになさじと水をせき、雪をたゝへて浮波の、花のしがらみかけまくも、かたじけなしや是とても、木華開耶姫の御神木の花なれば、風もよぎて吹き、水も影を濁すなと、袂をひたし、裳裾をしをらかして、花によるべの水せきとめて、桜川になさうよ。(下略)

これを描いたものに左の作がある。

板倉星光筆  『桜川』  第七回帝展出品

(『東洋画題綜覧』金井紫雲)