山形県新庄市

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総合

むがし、むがし。むがし、あったけど。

ある村さな、爺と婆んばがいだった。うんと稼ぐ人だ(たち)でな。ほんでもな、朝まのこっ早ぐがら、夜んまの遅ぐ

まで稼ぐども、なえだが運の向がね人だで、一所懸命にやってもなっても福の神が来ない。すかだね(貧乏)暮らし向きだった。

ある年な

「みんな総出て、茅場焼ぎ(かやばやぎ)すっぺや。来年の草や芽やなえかた(なにやかや)いやんべ(よく)育つよにや」て、

村中出はて野焼きしったけど。その爺も行ったった。

そんときぼうぼうど燃える中がら、狐こだが見えっと。巣作った茅場が焼がってしまたなよ。ちょうど、おぼこなす(出産)の

最中であったなよその爺、それ見で哀れなった。ほんでも村の人だ

「ほんた狐こ焼ぎ殺してすまえ、火ばかげろ」ていうど。ほれ聞ぎづげで、爺

「なんぼ狐こていえども、生ぎできた命だべ。早ぐ助けねんね」て、大急ぎで、火の中から狐こ一匹つかめで、

ポーンとぶってやった。すっと一匹だけ助かって、口さ子狐こばくへえで、わらわらど逃げでんぐけど。あどの狐だ、

全部焼ぎ殺さったなよは。

ほうして少ししてがら、爺まだ新庄さ町だち(買物)に出だど。その帰り途に、遅ぐなってしまったどは。帰り

の村道がわがらねぐ、暗くてな。爺ぁ、足の踏んだでね(足がおぼつかない)よなもんで、困ってだど。ほしたら、親

ど子っこ狐が松明つけで出はてきた。村の入り口まで、先立って、ちゃんと案内するもんだけど。爺まだ

「ははぁ、こりゃ、この間の狐こだな。狐こでも人さ恩じゃするもんだぜな」て、狐こだのとおりに歩いできた。

松明であご(片脚)ば出し出しよ。すっと、ちゃんと雪やらば、道踏みして、爺のずんべ(藁で作った履物)ば埋まら

ねようにしてくへる。狐に助けらって、爺まだ家さ戻ったど。

そのつぎの日にな。めんごげだ、あね(娘)が来たけど。

「はえっと(ごめんください)自分はこの間助けでもらった狐です。せんだっては命を助けらって、なにか恩返すば

してさげてお爺さんのすでごどいってけろ」ていうど。

「ほう。狐はやっぱり恩を返すていうなが。おめ、こんげだ夜にっまに、命の恩人だどんてきたなが、たまげた感心

だやつだ」

「お爺さん、おれ、これがら金の茶釜になるさげてお寺さ売って、金持ちになってください」て、こういったけど。

ほしたれば、狐はそこでクリックリックリッど回ったけ。びがびがした金の茶釜に化げだげ。

「そなだ、あんげ若げあね(娘)になったり、金の茶釜になったりが。ほんでもありがでな。ひとつ売りに行っ

てみっか」婆んばまだそれ見でたまげたど。爺はつぎの日、売りに出はるごどして、その金の茶釜ば枕元さ置いだ。

さあ、つぎの日なったど。隣村の和尚さんじゃ、うんと物好きな人であったど。そんで

「和尚さん、和尚さん。きんな(昨日)町さ木売りに行ったればな、質流れの金の茶釜ば見つけだ。こんげりっぱな

ものば俺なの持ってだてすやね(意味がない)べ。和尚さん、買ってくったらえがべ」て、見せだらば

「ほう、りっぱだな。こういうものは、お寺さ、置ぐもんだ。なんぼで買ったえべ」

「んですな。金の茶釜だもの、千両箱のひとづももらわなんねな」

「ええべ」てな。ほんで和尚さん、千両箱ひとつで、金の茶釜を買ったどごよ。爺、そんで、ほくほくて帰った。

ほうしてな。そのお寺さはな、小僧こ一人いだった。掃除がら、お茶出しがら、みんなその小僧こするなよ

「小僧、小僧。金の茶釜ば火さかげっと、へそび(鍋墨)つぐさげて決して火さかげんなよ」て、声かげだ。ほんでも、小僧なの、すっかり忘れでしまって、火さ仕掛けでしまった。

すっとまっ黒けになって、へそびだらけ

「こりゃあおんごどだ(たいへんだ)は。和尚さんに見つからねうちに磨くべは」て、灰ばかげでずごずごど洗っ

た。したれば、その釜声ば出すど。

小僧 小僧 痛てさげて そっと磨け

小僧 小僧 痛てさげて そっと磨け

さあ、小僧こ不思議したど。

「なえだが声のような、歌のような音だな。おがしな」て、不思議すうす、まだ金の茶釜のけっつ(尻)ばごりごりと磨いたけど。すっと、まだ

小僧 小僧 痛ってさげて そっと磨け

小僧 小僧 痛ってさげて そっと磨け

「和尚さん、和尚さん」て大声でいってな。

「あの金の茶釜おがしで。おらが磨くど、小僧、小僧。痛ってさげて、そっと磨けて、いう。なえだべ。来てみでくほ」

「ほゆごどいてっもな、耳の気聞違いだべ。このばか野郎め、なに寝ぼけてる」

「ほゆごどね 早く」て、無理にひぱてきて、磨いてみだども、歌も歌わねど。

「はで、妙だな、夢でも見だ見立て」

「ほんたべ、金の茶釜じゃぴがぴがてそんた気にもなるもんだ」てもどった。ほんで小僧こが、ごりごりどありっ

たげ力ばへって本磨きかがったらば

小僧、小僧、痛て痛て痛てさげてそっとそっと磨け

ていう。こんだ、和尚さんを聞ぎづけだ。

「あら、ら。この茶釜はずいぶん不思議な茶釜だごど。これぁ化け物んねべが。まず火さかげでみるべ。うんと

薪ばくべでおげよ。びりびりと火さくべで。どんどど火が燃えでるどさかげろちゃや」

おお燃しよ。ほして、火さかげらったら、熱っつくて、毛むくじゃらの足が出はり、尾っぽ、手がど、

「あらあら。狐こだぜ」てびっくら。見ているうぢに、狐こあ窓の高みがら、ビョーンど逃げでしまったけど。すっ

と、

「あら、ら俺の千両箱待で!」て和尚さん追かげでいった。

爺は千両箱で、それごそ末楽々ど暮らしたけどは。

とんびすかんこ・ねっけど