吉野拾遺

提供: ArtWiki
ナビゲーションに移動 検索に移動

総合

南朝関係説話を集めた中世後期の説話集。

跋(ばつ)文には「正平(しょうへい)つちのと戌の年」とあるが、正平年中に「つちのと戌」の干支はなく「つちのえ戌」の誤記で正平一三年(1358)の成立でないかとされるが疑わしい。「松翁」なる者が著した旨を記す。この松翁については、侍従忠房(ただふさ)説、吉田兼好の弟子命松丸(めいしようまる)説など諸説があるが、いずれも確証はない。この跋文自体を虚構とみる説 も有力である。作者はただ、南朝びいきの教養ある隠士で、兼好の影響下にある人物とのみ推定される。

成立年も確定できないが、室町時代の説話集『塵塚(ちりづか)物語』との関係から、1552年(天文21)以前であることは確かである。

諸本には、35話を収める二巻本のほか後人がこれに29話を増補して成立したと考えられる三巻本、および四巻本(内容は三巻本に同じ)がある。

内容は、巻頭に後醍醐(ごだいご)帝関係の和歌説話を配し、以下、神仏霊験説話、遁世(とんせい)説話、怪異説話、武勇説話、悲恋説話、誹諧(はいかい)説話など多岐にわたる。これらには『兼好法師集』『太平記』『神皇正統記(じんのうしょうとうき)』『徒然草』などをふまえつつ、『撰集抄(せんじゅうしょう)』などにみられるのと同様な、創作説話的方法で形成されたとみられるものがある。

『大日本史』『池の藻屑』『本朝語園』等に影響を及ぼしている。

また、浄瑠璃に

爰花咲吉野拾遺 ( ここにはなさくよしのしゅうい ), 文政一二初演

袖振雪吉野拾遺 ( そでふるゆきよしのしゅうい ), 天明六初演

御摂花吉野拾遺 ( めぐみのはなよしのしゅうい ), 文化一一初演

があり、江戸時代において題材として使われていたのだということが分かる。


<参考文献・サイト>

・『日本古典文学大事典』 大曽根章介ほか 明治書院 1998.6

・『日本大百科全書』 小学館 1984

・日本古典籍総合目録 http://base1.nijl.ac.jp/infolib/meta_pub/KTGDefault.exe?DEF_XSL=default&GRP_ID=G0001401&DB_ID=G0001401KTG&IS_TYPE=meta&IS_STYLE=default 閲覧日2010/05/19