『昔話桃太郎』続編

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総合

研究内容

 前期の発表では、桃太郎の誕生の仕方、人物像、プロットの比較をし、さまざまな桃太郎作品について言及した。「続編もの」を含め、発端話や戯作的なものまでに広がりを持たれ、愛読され続けてきた桃太郎作品。後期の発表では特に、その”続編もの”について研究していきたい。  


 主に取り上げる作品は以下の三つとする。

黄表紙『桃太郎後日噺』

(恋川春町画 明誠堂喜三二作 安永六年《一七七七》刊 東京都立中央図書館加賀文庫・東京都立中央図書館東京誌料・国会図書館蔵)


黄表紙『桃太郎元服姿』

(鳥居清長画 市場通笑作 安永八年《一七七九》刊 国会図書館蔵)


黄表紙『桃太郎再駈(ももたろうにどのかけ)』

(黄表紙 明誠堂喜三二 天明四年《一七八四》刊 鱗形屋孫兵衛板行 立命館アートリサーチセンター所蔵)




『桃太郎後日噺』

あらすじ

 鬼ヶ島征伐に成功した桃太郎は、宝物を持ち、犬猿雉と心優しい白鬼を連れて村に帰ってくる。桃太郎は十六歳になり元服。白鬼も角を切り落とし元服し、鬼七と改名。元服姿の似合う白鬼を見て猿も真似して元服し、猿六と改名。元服した猿六は、しつこくおふく(下女)に言いよるが悉く拒否される。おふくと鬼七は恋に落ち、やがて密通してしまう。その現場を猿六が目撃し、奉公人同士が密通することは罪にあたると告げ口をする。桃太郎は自分の恋が叶わないからといって告げ口をした猿六も同罪とした。桃太郎は罰として、金の出る小槌でおふくと鬼七に十両ずつ、猿には罪が軽いのでと二百文うちだし、同じく暇を出した。

 鬼七・おふく夫婦はその金で店を出し幸せに暮らすが、白鬼の許嫁だと鬼ヶ島からやってきた鬼女姫が現れ、おふくは怒りのあまり角を生やし、大蛇の姿になる。二人の女に追われる鬼七は田舎寺に逃げ込む。「夫を殺しに行く」と言うおふくを鬼女姫は止めるが、失敗。鬼女姫はそこで自害。そこで桃太郎が登場し、鬼七を殺しに行くおふくを切り殺し、猿六のことも踏み殺してしまう。最後に版元の鱗形屋が表れてあいさつをしている。




人物相関図

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【鬼七(白鬼)】

 鬼ヶ島では鬼女姫という許嫁がいながらも、日本でおふく(桃太郎家の下女)と関係を持ってしまう。


【猿六】

 おふくに言い寄るが断られ、鬼七を敵対視する。


【おふく】

 鬼七と関係を持つが、鬼女姫の登場で豹変する。


【鬼女姫】

 鬼七の許嫁だが、女(おふく)がいたことを知りショックを受ける。





『道成寺物語』とのつながり

『道成寺物語』…「道成寺の鐘供養を拝みに出た白拍子が、女人禁制なのを特に許された代りに舞をまう。白拍子は次第に本性をあらわし、清姫の執念の蛇となって鐘を巻く」物語。                                                           (立命館アートリサーチセンターartwiki :道成寺)  


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慶応義塾大学国文学研究室蔵[道成寺縁起絵巻]江戸中後期

 『慶應義塾大学国文学研究室蔵「道成寺縁起絵巻」解題・影印』石川 透 三田國文 (41), 49-60, 2005-06-00




【一】おふくが角を生やし、体は大蛇となる場面。(角、大蛇)

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【二】版元の鱗形屋があいさつをする場面。(大きな鐘)

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  →『道成寺物語』と桃太郎物語を組み合わせることで、この後日噺に登場する男女の三角関係(おふく、鬼七、鬼女姫)をより効果的に演出しようとしたのではないか。

『桃太郎再駈』

あらすじ

 鬼征伐に成功した桃太郎は、隠れ蓑・隠れ笠・うちでの小槌を持って帰ってくる。小槌でたくさんの金銀を打ち出し、家は裕福になり夫婦も喜んだ。桃太郎は桃の夭蔵と改名。父は昔の困難も忘れ、隠れ蓑・隠れ笠を見世物にして相当な金儲けをし、浅草の奥山に見世物の土地を借りて金儲けに走った。母も楽しみ事をし、毎日のように芝居、舟遊山に出かけた。それを夭蔵は気の毒に思い、両親が留守にしている時に、とんだや霊蔵に宝物の偽物を作るように頼む。

 夭蔵は父母に隠れ笠の妖精が現れたという作り話をし、それを信じた夫婦は使い物にならない宝物を見て嘆く。財産を持った夭蔵に対して霊蔵は鬼が島(実際は吉原)に行くことを勧める。夫婦は、また夭蔵が宝物を持って帰ってくると思い、張り切り金の入ったきび団子を作る。夭蔵と霊蔵が「鬼住む里」へ向かう途中で、太鼓持ちの犬二郎、太鼓持ちの喜二郎、左次兵衛(猿)、と出会う。桃太郎は丁子屋のその花(遊女)を気に入り、身代金を払ってその花一行と様々な花嫁道具や本物の宝物と共に村に帰る。その後、その花と夭蔵の間に二代目桃太郎が誕生し、ますます夭蔵家は栄える。




『昔話桃太郎』のパロディー化

●「父は奥山へ芝居がりに、母は浅草川へ命の洗濯に…」

 と本来の昔話桃太郎をもじった表現。                    命の洗濯‥苦労を慰める楽しみごと


●犬二郎(犬)、喜二郎(雉)、左次兵衛(猿)の登場

●悪友に伴われて吉原に遊びに出かけるのを、再び鬼ヶ島へ鬼退治に出かけるように見立てている。





『桃太郎元服姿』

あらすじ

 桃太郎に宝を取られた鬼ヶ島では、宝を取り返すために鬼たちが計画をたてる。鬼ヶ島で最も美人な赤鬼の娘であるおきよが、桃太郎を油断させて宝を取り返すために日本に行くことになる。

 しかし、おきよは桃太郎に恋に落ち、やがて桃太郎の女房になり、桃太郎から宝を奪うことができない。待ちかねた鬼が鬼ヶ島から様子を見に来る。鬼はおきよが桃太郎と恋に落ちたことを知り、桃太郎を殺すを言うので、おきよは耐えきれずに自害してしまう。

 おきよの死を大変不憫に思った桃太郎はそれ以降、鬼退治をしなくなった。


 →鬼の哀しみに目を向けた物語。



鬼の登場する物語

▶桃太郎

 孤立的な島に鬼が群れをなして住んでいて、大将がいて、人びとから恐れられている。

 しかし、桃太郎にいとも簡単に負けて、財宝を奪われてしまう。


▶一寸法師

 鬼にさらわれた娘を守ろうとすると、鬼は一寸法師を飲み込んでしまう。

 しかし、一寸法師は鬼の腹の中を針で刺し、鬼は一寸法師を吐き出し山へ逃げ帰ってしまう。


▶こぶとりじいさん

 大きな瘤を持った二人のお爺さんと鬼の物語。一人のお爺さんは鬼の宴会で踊りを披露し、鬼に喜ばれて一つ瘤を取ってもらう。

 それを聞いた欲深いお爺さんは鬼の住む山に行くが、かえってもう一つ瘤をつけられてしまうことになる。


                                               など…。


 鬼の住処

  ・桃太郎ー鬼が島

   ・おむすびころりんー穴の中

   ・こぶとりじいさんー山


 そこでは、鬼たちが大勢集まって、酒を飲んだり、御馳走を食べたりして騒いでいる。

 昔ばなしの鬼は、伝説の鬼とは異なり、話の最後ではいつも人間に負けている




鬼のイメージ

大きな体、恐ろしい力の持ち主

山奥に住む

村に来ては食べ物や財産、娘をさらっていく

恐ろしい存在

避けるべきもの

退治すべきもの(人間社会から排除すべき存在)

受け入れがたい異質な存在

対立する関係

悪さをする

鬼はいじめてもよい

頭が悪いので騙されやすい





鬼に対立する人物

▶一寸法師

小さくても頭を使えば、鬼を退治できる。

未熟な子どもたちは自分と変わらない一寸法師に

自分を照らし合わせてそのわくわく感を楽しむことができる。


▶桃太郎

正義や勇気に溢れている。英雄。

子どもたちにとっての理想のスーパーマン。

子どもは主人公に自分と照らしあわせ、恐ろしい鬼と戦うスリルを楽しむ。


▶こぶとりじいさん

社会的弱者(老人)であっても、頭を使えば困難を乗り越えられる。鬼をうまく利用することができるということを知る。


 →子供たちになってほしい理想の人物像




鬼の描かれ方

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 ◎平安時代末期~鎌倉時代に編されたもの


  『今昔物語集』『宇治拾遺物語』『古本説話集』     

                …「さまざまの怖ろしげなる形



  『今昔物語集』では、

     回国の修行僧である義睿(ぎえい)が熊野の大嶺山の奥にわけ入った先で目撃した鬼ども

                     …馬の頭のもの、牛の頭のもの、鳥の首のもの、鹿の形をしたもの



  『古本説話集』では、

        西三条右大臣の若君が女のもとに忍んで行く途中で遭遇した鬼ども

                     …手三つで足一つのもの、目ひとつのもの




   *百鬼夜行とはたくさんの鬼という意味ではなく、さまざまな鬼という意味。




   ⇔私たちのイメージ


          …赤、黒、青などの肌の色をした骨格たくましい鬼



     歴史の流れで、しだいに「鬼」と「百鬼夜行」が区別されるようになる。

     「角を持った骨格たくましいもの」のみが「」とみなされ、

     その他の滑稽な形をしたものは「化け物」として区別をされていった。


                 「鬼の図像をめぐって」小松和彦(国際日本文化研究センター教授)





鬼の哀しみに目を向ける

   ◆『桃太郎元服姿』でのおきよの哀しみ

    桃太郎に恋に落ちてしまったおきよは、恋が叶った訳でもないが、

    彼を騙して宝を持ち帰ることはできず、桃太郎と鬼ヶ島との間で苦しくなり自害する。



   ◆おきよの死に対する桃太郎側(人間)の言葉や気持ち

    桃太不憫に思う

    こふこふなしなずとしやうもあらふのに

    顔は鬼でもしおらしく、着物も今時、顔は美しくても心は鬼のあるらしき事なり。


 ◎韓国では、幽霊・妖怪・精霊・鬼のようなものを呼ぶ時に「鬼神」ということばをよく使う。


 ・未婚のままで死んだ女の霊である「処女鬼神」

 ・男の「モンダル鬼神」

 ・山に住む小鬼「トッゲピ」

 ・溺死者の霊である「水殺鬼」

 ・昔、便所を建てる際に卵を埋めた風習に由来するという「タンギャル鬼神(卵鬼神)」

 ・「九尾の狐」



     「鬼神の哀しさ」松崎遼子(啓明大学専任講師)(『月刊みんぱく』「特集 鬼はソト、鬼はウチ」35−2、2011年)


   これらの鬼神は、人を驚かせたり、人に憑いたり、ひどいときには殺してしまったりする。

 しかし、そんな鬼神も、悪さをするのを目的に存在している訳ではないようだ。


 鬼は人間とは違うということから悪さに繋がってしまうこともあるが、本当は可哀想な立場なのではないだろうか。





一寸法師

現代版『一寸法師』

一寸法師はたった一寸の背丈で生まれるが両親にかわいがられ育つ。やがて、一寸法師は京に出ていく。そこで立派な家で働かせてもらい、その家の娘と出逢う。

その娘のお宮参りに一寸法師がお供をすると、鬼が娘をさらおうとした。鬼は一寸法師を飲み込むが、一寸法師が鬼の腹の中を針で刺したので鬼は降参。

その後、一寸法師は鬼が落としていった打ち出の小槌で体を大きくし、娘と結婚。食料や金銀財産をも打ち出し、豊かに暮らす。


御伽草子『一寸法師』

 昔、おじいさんとおばあさんが住んでいた。おばあさんは40歳になるまで子供ができないのを悲しく思い、住吉神社にお参りをして、子供が生まれるようにお祈り申したところ、住吉大明神も気の毒にお思いになり、おばあさんが41歳の時に妊娠したことが分かったので、おじいさんもとても喜んだ。やがて10ヶ月が過ぎて、かわいらしい男の子が生まれた。

 しかし、その子は生まれてからずっと背が一寸のままで大きくならなかったので、名前を「一寸法師」と名付けられた。夫婦は、化け物のようだ、どういう罪の酬いでこんなものを住吉大明神から授かったのだろうかと、嘆いた。一寸法師はそういった話を知ってしまい、自ら出て行くことにした。刀の代わりに針を持ち、舟の代わりに箸とお椀を持って旅立った。 都のはずれに行き着いた一寸法師はお椀の舟を乗り捨てて、三条の宰相殿のところに寄り、そこで気に入られ住まわせてもらうことになる。やがて一寸法師は16になったが背丈はそのままだった。宰相殿には13歳の姫君がおり、容姿も優れていらっしゃったので、一寸法師は一目惚れをした。

 なんとか姫を妻にしたいと一寸法師は策略をめぐらせた。姫君の眠ている時にお米を姫君の口に塗り、そして自分は空の茶碗を持って泣いた。それを見た宰相殿は姫を盗人だと追放を一寸法師に命じた。一寸法師はまだ夢の中の姫を連れ出していった。

 舟に乗ると突風に吹かれて奇妙な島に行き着いた。二人の鬼がやってきて、一寸法師を飲み込んで姫を奪おうとするが、一寸法師は何度飲み込まれても鬼の目から出てきたので、鬼は恐くなって逃げて行った。一寸法師は鬼の落として行った打ち出の小槌で背を大きくし、食べ物をも打ち出し、その後幸せに暮らしたという。  

  ※『御伽草子』(古市貞次、岩波書店、1958年)を訳したもの。


異なる点

・老夫婦が、一寸法師が全く大きくならないので化け物ではないかと気味悪く思っていた。そこで、一寸法師は自分から家を出ることにした。

 (⇔一寸の背丈だったがかわいがられた。)


・京で一寸法師が住んだのは三条の宰相殿の家

 (⇔立派な家との記載のみ)


・一寸法師は宰相殿の娘に一目惚れし、妻にしたいと思った。しかし小さな体ではそれはかなわないということで一計を案じた。神棚から供えてあった米粒を持ってきて、寝ている娘の口につけ、自分は空の茶袋を持って泣きまねをした。それを見た宰相殿に、自分が貯えていた米を娘が奪ったのだと嘘をつき、宰相殿はそれを信じて娘を殺そうとした。一寸法師はその場をとりなし、娘と共に家を出た。

 (⇔娘とお宮参りに行く。)


・二人が乗った船は風に乗って薄気味悪い島に着いた。そこで鬼に出会い、鬼は一寸法師を飲み込んだ。しかし一寸法師は体の小ささを生かして、鬼の目から体の外に出てしまう。それを何度か繰り返しているうちに、鬼はすっかり一寸法師を恐れ、持っていた打出の小槌を置いて去ってしまった。

 (⇔一寸法師は鬼の腹の中を針で刺す。)


・一寸法師の噂は世間に広まり、宮中に呼ばれた。帝は一寸法師を気に入り、中納言まで出世した。

 (⇔この流れはない。)




まとめ

 戯作物では笑いや少しふざけた要素を取り入れているが、そうではない物語も存在する。「鬼=排除すべきもの、恐ろしいもの」という、いわゆる「常識」の中でも、鬼を少しでも思いやるような思考があったのだろうか。鬼の哀しみに目を向け、新鮮さを生み出すことによって、「桃太郎続編」をより効果的に演出したとも考えられる。鬼といっても、悪さをするものばかりではない。人間とは特徴が違い、不都合なことも多く、気が合わないために、「悪さ」に繋がってしまうこともあるが、本当は可哀想な存在なのではないだろうか。




参考文献

書籍閲覧システム 最終閲覧日2013年12月13日

立命館アートリサーチセンターartwiki  最終閲覧日2013年12月13日

『江戸の戯作絵本(一)』小池正胤,宇田敏彦,中山右尚,棚橋正博、1980年12月30日、社会思想社

「黄表紙『桃太郎再駈』翻刻と注釈」中村正明、2012年3月『澁谷近世』(18)133-151

『国立国会図書館所蔵黄表紙集 保存版第一〜三巻』フジナミ書房 2009

「読みがたり」に登場する“鬼”ー子どもに語る昔話からー 林眞代 関西国際大学紀要 第13号 2012年 15〜25

『一寸法師』江戸川乱歩、春陽堂書店、1993年

『大岡昇平』大岡昇平、ちくま日本文学全集、筑摩書房、1992年

『お伽草子百花繚乱』徳田和夫編、笠間書院、2008年

『一寸法師のメッセージ』藤掛和美、笠間書院、1996年

「特集 鬼はソト、鬼はウチ 日本の昔ばなしの鬼」、『月刊みんぱく』35−2、401、2011

『御伽草子』市古貞次校注、昭33年、岩波書店