「日本霊異記」

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狐を妻として子を生ましむる縁 第二

昔、欽明天皇の頃、三野(美濃)国、大野郡の人が妻となるべき女を求めて馬を進めていた。その時、広野の中で夫となるべき男を求めている美しい女に出会い、これを妻とした。  女は一人の男の子を生んだ。十二月十五日に生まれたその家の犬の子は、いつもこの婦人に敵意をみせ、歯をむいて吠えかかった。婦人が用事で碓屋に入ったとき、この犬の子は婦人にかみつこうとして追いかけて吠えかかった。婦人は驚き恐れて本性を現し、野干(狐)となって垣の上に登っていた。家長はこれを見て、『汝との間に子があるから吾は汝を忘れない。常に来て相寝よ。』と言った。故に、夫の言葉に従いやって来ては寝た。それ故、キツネとする。また、生まれた子の名をキツネと名付け、その子の姓を狐直と負わせた。三野の国、狐直の根本がこれである。


参考文献

『新潮日本古典集成(第六七回)日本霊異記』 小泉道 新潮社 昭和59