葵
総合
「源氏物語」に出てくる女性。左大臣の娘、母は大宮。
右大臣家から皇太子(後の朱雀帝)の妃にと望まれていたが、父の左大臣が、桐壺帝の寵愛する光源氏と結婚させようと決めたため、光源氏の正妻となる。心が藤壺に向いている源氏となかなか打ち解けることが出来ず、さらに源氏が二条院に紫の上を迎えてますます疎遠となる。
ー葵の巻・あらすじー
結婚九年目にして懐妊した葵上は、葵祭を見物に行くが、葵上の従者と光源氏の恋人・六条御息所の従者が車を停める場所を巡って争い、お忍びで来ていた六条御息所の姿をあらわにして辱しめてしまう。六条御息所は恨み心を強くし、生霊となって葵上を苦しめる。やがて葵の上は夕霧を出産するが、その物の怪による発作のために息絶える。
画題
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解説
東洋画題綜覧
葵は錦葵科の植物で、種類が甚だ多い、冬葵は、日本に古くからあつた植物で、『万葉集』十六巻の
梨棗黍に粟嗣ぎ延ふ田葛の後も逢はむと葵花咲く
の葵は、此の冬葵であるといふ、現今最も多く絵画等に見られる立葵は小亜細亜の原産で支那を経て日本に渡来した、茎は直立して五六尺に達し、花は五弁で大輪、色も紅、黄、紫、白、絞等いろ/\あり、色が鮮かなので欧洲の醸造家は酒の色をつけるのに此の花を用ゐるといふ、銭葵も古くから知られてゐたものであるが、花の輪が小さくあまり美しくない、紅蜀葵は、『もみぢあふひ』と呼ばれ、『かざぐるま』とも呼ばれてゐる、北米原産で、真紅の五弁、弁と弁の間が透いて、花柱が長く花外に突出して居り、葉は一寸麻に似てゐる、『もみぢあふひ』の名はここに起つてゐる。これに対し、黄蜀葵は『とろろあふひ』の別名があり、花は黄色大輪、支那原産である処から南画に多く描かれてゐる。
葵を画いた名作は左の通りである。
伝銭舜挙筆 浅野侯爵家蔵
銭舜挙筆 徳川侯爵家旧蔵
沈南蘋筆 吉田楓軒氏旧蔵
尾形乾山筆 保坂潤治氏蔵
呂紀筆 大沢百花潭氏旧蔵
探幽筆 『黄蜀葵』 井上侯爵家旧蔵
宋済川筆 『黄蜀葵』 片岡直温氏蔵
横山大観筆 『蜀葵』 第十五回院展出品
小林古径筆 『鶴と七面鳥』 同 院展出品
水上泰生筆 『紅蜀葵』 個人展覧会出品
(『東洋画題綜覧』金井紫雲)
源氏物語五十四帖の中、源氏廿二歳より二十三歳二月までの事を書いた、巻の名は、
はかなしや人のかざせるあふひゆえ神のふるしのけふをまちける
から来てゐる、廿二歳の春、朱雀院即位し冷泉院東宮となる、四月加茂の祭に六条御息所葵の上と車争ひの事があり、のち葵の上若君夕霧を生むが、その悩みの中、六条御息所の生霊が現はれ、葵の上を責め、葵の上その為めに命を落す。
『くるまあらそい』(車争)の項参照。
(『東洋画題綜覧』金井紫雲)