井筒

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いづつ


画題

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解説

画題辞典

いづつ

謡曲にして伊勢物話の在原業平と紀有常の女との情事を基として作りしものなり。旅僧大和国山辺郡石上在原寺に詣でしに、有常の女里女となりて現はれ、業平との情交を物語り、井筒の陰に隠れけるが、夜更くるまゝに僧のまどろむともなき間に、先の里女誠の有常の女となりて舞ひ出で夜の明くると共に失せ行く事を記せしものなり、其の井筒と名付けしは業平の有常の女に送りし歌に、「筒井筒井筒にかけしまろがたけ 過にならしな君見ざるまに」とあるによれり、処は大和石の上、季は九月なり、亦た古来好画材とせらる。(『画題辞典』斎藤隆三)

東洋画題綜覧

伊勢物語筒井筒の段を本として作つた。謡曲の名、諸国一見の僧が南都七堂に詣で初瀬に向ふ途中在原寺に立寄り、業平や、紀有常の女のあとを弔ふとする、里の女が出て僧を案内する、やがて井筒の女現はれて、筒井筒の昔語りをする、前シテは里の女、後シテは井筒女、ワキが僧である。

「猶々業平の御事くはしく御物語候へ、「むかし在原の中将、年経てこゝに石の上〈かみ〉、ふりにし里も花の春。月の秋とて住み給ひしに「其頃は紀の有常が娘とちぎり、妹背の心あさからざりしに、「又河内の国高安の里に、知る人ありて二道に忍びて通ひ給ひしに、「風ふけば沖つ白波立田山、「夜半にや君がひとり行くらんと、おぼつか波の夜の道、ゆくへを思ふ心とげて、よその契りはかれ/"\なり、「げに情知るうたかたの、「あはれをのべしも理なり、「むかし此国に住む人の有りけるが、宿をならべて門の前、井筒によりてうなゐ子の、友達かたらひて、たがひに影を水鏡、面をならべ袖をかけ、心の水も底ひなく、うつる月日も重なりて、おとなしく恥ぢがはしく、たがひに今はなりにけり、其後彼まめ男、言葉の露の玉章の、心の花も色そひて、筒井筒、ゐづゝにかけしまろがたけ、「おひにけらしな妹見ざるまにと、よみておくりける程に、其時女もしらべこし、振分髪も肩過ぎぬ、君ならずして誰かあぐべきと、たがひによみし故なれや、筒井筒の女とも、聞えしは有常か娘のふるき名なるべし。

「げにや旧りにし物語、聞けば妙なる有様の、あやしき名のりおはしませ、「誠に我は恋衣、紀の有常が娘とも、いざ白波の立田山、夜半にまざれて来りたり、「ふしぎやさては、立田山、いろにぞいづる紅葉ばの、「紀の有常が娘とも、「又は井筒の女とも、「はづかしながら我なりと、「いふやしめ縄の長き世を契ぎりし年は筒井筒、ゐづゝの陰にかくれけり。(下略)

井筒は能画としてよく描かれる。

(『東洋画題綜覧』金井紫雲)