寛政11年夏、江戸堺町中の芝居で催された子供芝居を描いた錦絵。江戸の役者絵は通常大芝居を描くものであり、子供芝居を描くものは珍しいが、この興行の際には絵師に勝川春亭、l版元に榎本屋というチームでシリーズ化して出された。<4>市川団三郎は<4>市川団蔵の養子で、当時弱冠11才だが、早くから大芝居にも出演し所作事の名人と評されていた役者。この時の子供芝居では、スケ(役者の数が揃わない時の応援)として出演した団三郎が好評であった。場面的には、烏帽子を取った後の手踊か、鞠歌の件を描いたものか。おそらく団三郎のあどけなさを表現するため、「道成寺」の中で初々しい娘の演技をする箇所を選んで作画したものであろうが、この場面を描く図は他にほとんど例がなく、初期の「道成寺」のあり方を知る上でも非常に貴重な一枚である。