ArcUP0477

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恋合 端唄つくし 久我之介 雛どり

画題:恋合 端唄つくし 久我之介 雛どり
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絵師:三代目豊国

判型:大判/錦絵

落款印章:豊国画

版元名:若狭屋 与一

改印:申十一改

上演年月日:万延1(1860)年

上演場所:江戸

配役:久我之介…尾上梅幸 雛どり…中村福助

《翻刻》

和歌の浦には名所がござる、一にごんげん、二に玉津嶋、三にさかり松、四にしほがまや、天のはし立、切戸の文殊、もんじゅさんはよけれども、切といふ字が気にかかる、サアサなんとしようか、どうしようぞいの

すみだ川には名所がござる、ぬしを三めくり、吾妻ばしにゑんのはし場をまつち山と、深きおもひはアノかねがふち、土手のさくらはよけれども、うつろふ色が気にかかる、サアサなんとしようか、どうしようぞいな


〔現代語訳〕

和歌の浦には名所がある。一つは権現、二つ目は玉津島、三つ目は枝が垂れ下った松、四つ目に塩釜、天の橋立、切戸の文殊菩薩。菩薩様は良いけれども、「切」という字が気にかかる。さぁ、どうしたものか。

隅田川には名所がある。主に三囲神社、吾妻橋に縁の橋場を待乳山と、深い思いはあの鐘ヶ淵。土手の桜は良いけれど、移ろってゆく色が気にかかる。さぁ、どうしたものか。


〈題材〉

「妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)」

〈梗概〉

春日野で出会った大判事清澄の嫡男久我之助(こがのすけ)と太宰の後室定高の娘雛鳥は、互いに素性を知らぬまま恋慕するが、両家が以前から領地争いのために遺恨のある関係にあることを知って落胆する。  吉野川を挟み、妹山には太宰の下館、背山には大判事の下館。妹山には雛鳥が出養生に来ており、背山には久我之助が父の勘気を受けて引き籠っている。二人は、越え難い川を隔てて言葉を交わすが互いの恋慕の情はつのるばかりである。蘇我入鹿からの難題(久我之助を自分に仕えさせ、雛鳥を入内させるということ)に胸を痛める大判事と定高がそれぞれの館にやってくる。二人は道々、子らがそれぞれ難題を承知したら桜の枝を川に流すことを申し合わせる。入鹿の難題を聞き、久我之助は切腹を覚悟し、雛鳥は貞女の道を立てて母に首を討たれる。そして、二人の親たちは申し合わせたように桜の枝を川に流す。互いにせめて相手の子どもだけでも助けたいという親心とわかり、両家の確執は解けて和睦が成る。あえない二人をせめてあの世で添わせてやろうと、雛鳥の首が雛の嫁入り道具とともに吉野川を渡して背山の側に送られ、断末魔の久我之助との祝言の盃が交わされる。 (『妹背山婦女庭訓』白水社 1995.8)

 また、今回の発表で取り扱う場面及び、上記の梗概は三段目(太宰館・山の段)である。

〈登場人物〉

久我之助清船… 紀伊の国の領主大判事清澄の嫡男久我之助清船は、吹き矢筒を囁き竹にして言い交わした雛鳥が、領地をめぐって争う隣国大和の国の領主太宰の少弐の後室定高の娘だったと知る。背山の館に蟄居する久我之助は、妹山の館の雛鳥と吉野川を挟んで再会。雛鳥の無事を願いつつ、天智天皇寵愛の采女の局を逃した疑いから、父親大判事の介錯により切腹して果てる。

雛鳥… 雛鳥は、親同士が敵対するとも知らずに、久我之助を見染める。吉野川を隔てて久我之助に再会。久我之助への貞節を守るため、入鹿大臣の入内の要請を断り、母親定高に首を討たれて死ぬ。

〈配役〉

尾上梅幸… 歌舞伎俳優。尾上菊五郎代々の俳名で、三世は一時名のって舞台に出たが、初世、二世、四世、五世は芸名にはしなかった。

中村福助… 歌舞伎俳優。1830~99 四世中村芝翫の前名。二世中村富十郎の門弟中村富四郎の子が、中村玉太郎、政之助を経て、四世中村歌右衛門の養子となり、天保10(1839)年に福助と改名。万延1(1860)年まで名乗った。

(『歌舞伎事典』平凡社 1980.11)

妹山・背山

 大字上市の東に吉野川を挟んで右岸に妹山、左岸に背山が相対する。背山は大字飯貝に属し、紀伊山脈からの支脈の末端で標高272m。妹山は竜門川と津風呂川が本流へ注ぐ中間地域、大字河原屋にある小孤立丘陵で円錐形の山容を示し、標高260m。

 妹山は古来大名持の神の鎮座する山としてあつく崇敬された。忌山すなわち禁忌的信仰の神の山として「妹山の土は生きているから木も毎日様子が変わる」「山の上に池がある」など神秘な伝承のある山である。飛鳥・藤原・奈良の都から吉野への出口で交通の要点であったところからこの山の神への信仰がいよいよ高まったとみられる。(引用『日本歴史地名大系第30巻 奈良県の地名』)

吉野川を挟んで対極にある背山と妹山は、それぞれ「男の世界」と「女の世界」を表している。
1859.3 3代豊国
                                                      
「大判司」「久我之助」3代豊国

〈男の世界〉大判事の山屋敷の様子

・大判事清澄と久我之助清船

・簡素な部屋

・柏の木

・忠義を貫くために切腹

〈女の世界〉太宰の下館の様子

                                      
「貞高」「雛鳥」3代豊国

・太宰の後室定高と雛鳥                                   

・華やかな雛壇

・桜の木

・恋に殉じたいと母に懇願

〈男の世界〉〈女の世界〉について  松崎氏の論文より

また、松崎仁氏は『「山の段」の構造―「妹背山婦女庭訓」研究』のなかで、

「ここでは雛鳥はもちろん二人の胸元も、考えること話すこと、すべて「恋」に限られている。(中略)そのあげくには腰元は障子を明けて、「せめて遠目に」久我之助の姿をと、縁端から身を乗り出し、雛鳥は封じ文に小石を添えて投げる。もちろんそれは届くはずもなく、川に落ちて流れ去り、雛鳥の嘆きは深まる。

これに対して背山では、久我之助は「うつ/\と」物案じにふけっている。(中略)そこに妹山から石が投げられた。しかし久我之助はそれを恋のたよりとは全く思いもず、(中略)政治的状況を示すものと考え、…(中略)

久我之助の心が政治的状況の問題で満たされ、妹山の女たちの心が「恋」のことに集中しているさまが、この両岸の食い違いによって鮮明である。」

と述べている。

まとめ

 今回取り上げた「妹背山婦女庭訓」は、吉野川を挟んだ両側の山で久我之助と雛鳥それぞれのストーリーが進行し、最終的には死をもって結ばれる悲恋の物語であるが、「妹山」と「背山」でおこることは正反対である。「男の世界」と「女の世界」のコントラストによって、より「純愛」というテーマが鮮明になってくるのではないか。また、最終的に「男の世界」と「女の世界」が、二人を隔てていた吉野川を越えて初めて融合するとき、その水面下では「めでたく結ばれた二人」と「死」という、今まで以上に対照的な表現がなされ、第三幕・山の段は幕を閉じる。しかし、二人の死は同時に、両者の親同士の確執を解いた。常に「陰」と「陽」がうごめき合う中心に、先にも述べた「純愛」という軸がはっきりと見えてくるのではないだろうか。  また、今回は触れることができなかった衣装や装飾品、ロミオとジュリエットやウエストサイドストーリーとの比較は次回の課題である。


〈引用・参考文献〉

・『妹背山婦女庭訓 伊賀越道中双六』白水社 1995・8

・『歌舞伎衣装附帳』松竹衣裳株式会社 1991・4

・「日本文学研究 第24号」梅光女学院大学日本文学会 1988・11

・『歌舞伎鑑賞辞典』東京堂出版 1993・9

・『日本歴史地名大系第30巻 奈良県の地名』平凡社 1981・6

・『日本古典文学大辞典』岩波書店 1983・10

・『字典かな』笠間書院 2003・8

・『歌舞伎・浄瑠璃事典』日外アソシエーツ 1991・7

・『日本音曲全集第12巻 小唄・うた澤・端唄全集』緑蔭書房 1987・9

・『文楽 妹背山婦女庭訓』国立劇場 1986・3

・『日本国語大辞典第二版』小学館国語辞典編集部 小学館 2001・12

・『原色浮世絵大百科事典 第四巻』原色浮世絵大百科事典編集委員会 大修館書店 1981・11

・『「らしさ」の心理学』講談社 1985・12

・『浮世絵大事典』東京堂出版 2008・6

・JapanKnowledge http://www.jkn21.com/stdsearch/displaymain

・『浄瑠璃集』小学館 2002.10