雷不動北山桜
総合
なるかみふどうきたやまざくら
鳴神劇の系譜
- 貞享元(1684)年江戸中村座「門松四天王」にて鳴神初演。
※元禄6年~10年まで上京
※元禄10年5月息子九蔵(二代目市川団十郎)「兵根元曽我」で初舞台。
- 元禄11(1698)年江戸中村座「源平雷伝記」にて鳴神。
- 元禄16(1703)年江戸森田座「成田山分身不動」にて黒主(鳴神にあたる役)。
※元禄17(1704)年(宝永元年)初代市川団十郎死
※寛保元年団十郎上京
七代目市川団十郎 ※歌舞伎十八番
- 天保5(1834)年3月大坂角之芝居「鳴神桜」→はじめて「歌舞伎狂言尽拾八番之内」とする。
- 天保5(1834)年7月江戸森田座「桜艶色鳴神(ゆめみぐさいろになるかみ)」→同じく「歌舞伎十八番之内」とする。
- 天保14(1843)年6月江戸河原崎座「迷雲色鳴神(まよいのくもいろになるかみ)」
- 嘉永4(1851)年5月江戸市村座「鳴神」
- 明治43(1910)年5月東京明治座「鳴神」→二代目団十郎の北山桜に帰ることを試みる。
鳴神劇の構成
絶間花道の出
『雷神不動北山桜』
花道よりそろ/\出て 滝壺の前に立
『鳴神』
トこの文句にて向ふより、当麻姫、着ながし、ふり袖の形り、肩に薄衣をかけ、松虫と撞木を持ち、しづかに出て来り、花道よき所に立ちどまり、矢張一セイ、滝の音
トこの浄るりの内、当麻姫、本舞台へ来り、滝へむかつて鉦をうちならす。鳴神、滝のもとへ、思入あつて
絶間姫の濡れ咄
- 短冊の取り交わし(『雷神不動北山桜』、『鳴神』)
- 川渡り(『成田山分身不動』、『雷神不動北山桜』、『鳴神』)
- 口舌(『成田山分身不動』、『雷神不動北山桜』、『鳴神』)
鳴神が台より落ちる
- 下座に落ちる(『源平雷伝記』)
- 逆様に落ちる(『成田山分身不動』)
- 鳴神壇上より落ちる(『雷神不動北山桜』、『鳴神』)
⇒一角仙人の当て込み(『成田山分身不動』、『雷神不動北山桜』、『鳴神』)
夫婦・師弟の契約
夫婦の契約(『源平雷伝記』)
師弟の契約、尼になる(『成田山分身不動』『雷神不動北山桜』、『鳴神』)
濡れ場
くどきの所作(『成田山分身不動』)
鳴神が絶間に憑依する(『雷神不動北山桜』)
癪の差し込み→鳴神の破戒(『鳴神』)
鳴神の生い立ち(『鳴神』)
鳴神の還俗(『鳴神』)
法の秘密を打ち明ける
酒⇒酩酊して行法の秘密を話す(『源平雷伝記』、『成田山分身不動』、『雷神不動北山桜』、 『鳴神』)
荒事
『源平雷伝記』
彼處に立ちし不動の台掻掴み、岩石古木を引倒し、顔色変つて怒らるゝ。同宿驚き止むれば、取つては投げ、掻掴み、競ひかゝる有様は凄じかりける次第なり。現人神か、鳴神かと、みな/\恐れて見えにけり。(鳴神=現人神になる)
『成田山分身不動』
大石古木引崩し縦横無尽に取つて投げ跡を慕うて追ひかくる
『雷神不動北山桜』
ト此内海老蔵〔鳴神〕顔を赤く塗る(・・・中略・・・)
ト夫より荒立に成 舞台中をめぐり/\探す 坊主皆々付廻る 此内 始終雷鳴る
ヤア あら無念 口惜やナア 寸前尺魔の障碍 仏罪を蒙つて秘法の行法を破れしよなア よし我 破戒の上からは 生ながら雷神となつて 彼女めを追かけんに何の難き事かあらん 天は三十三天 地は金輪奈落の底雨と成 風と成り(・・・中略・・・)
ト三重 大雷 大雨 どろ/\にて 海老蔵〔鳴神〕大荒れにて 此内投人形 投げ岩有て 向ふへかけては入ル 同宿皆々 師匠様/\と 慕い は入ル よろしく 幕
『鳴神』
鳴神「扨は、我行法をやぶらんと、雲の絶間といふ女、勅諚をもつて、ここに来りしより○そのたへまめを○ヤアラ、残念や、口をしやナア○寸善尺魔の障化仏罰、我破戒のうへは、生ながら鳴る神となつて、彼女たとへいづくにかくるゝとも、天は三十三天、地は金輪ならくの底○雨となり、風となり」
√東は奥州外が濱。
鳴神「西は鎮西鬼界がしま」
√南は紀の路那智の滝。
鳴神「北は越後のあらうみまで、人間の通はぬところ」
√千里もゆけ、万里もとべ、女をここへ引よせん。
トこの内、皆々とゞめるを、千鳥になりて、トゞ壇上へのぼり
√しんいのほむら舞あがり、
ト鳴神、引ぬくとお、総身一面の火炎となり、毛逆立て、きつと見え
√雲井はるかに鳴神か、あやしをそろし。
ト鳴神、柱巻の見得。これにて坊主みな/\、海老おれになる。大どろ/\、雷の音。この段きりにて、目出たく打出し。
荒事の成立
参考文献
- 河竹繁俊著『評釈江戸文学叢書歌舞伎名作集上』(昭和10年、講談社)
- 郡司正勝著『日本古典文学大系98 歌舞伎十八番集』(昭和40年、岩波書店)
- 浦山政雄「鳴神劇の伝系」(『日本女子大学国語国文学論究』第1集、昭和42年)
- 『元禄歌舞伎傑作集 上』(昭和48年、臨川書店)
- 『歌舞伎台帳集成 第四巻』(昭和59年、勉誠社)