鈴虫

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すゞむし


画題

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解説

画題辞典

源氏物語の一巻に鈴虫あり、八月十五日の夜、月おもしろかりし時、六条院には、入道の宮(女三の宮の剃髪されたる後の名なり)の方に御座しまし、月御覧あるに、ぜんさいに放たれたる多くの虫の内、鈴虫とりわけさわやかなりしかば、入道の宮「大方の秋をばうしと知りにしを ふりすてがたきすゞむしの声 心もて草のやどりをいとへども なほすず虫の声そふりせぬ」とありしとなり。源氏絵の一に挙げらる。

(『画題辞典』斎藤隆三)

東洋画題綜覧

鈴虫は蟋蟀科に属する昆虫で、全身黒褐色長い触角一対ある、これは基部が黒色中間が白色末端が褐色、前胸と背の中央が著しく凹み、雄の翅は縁が内方に折れて腹部を覆ひ、雌はやゝ短い、リーンリーンと鈴を振るやうな音を立てるので此の名があり、大抵六月の半頃に孵化し八月の末頃から鳴く、鳴くといふても雄が異性を求める為めにその翅を振動させるのである、支那では、金鐘児、金琵琶、月鈴児などゝ呼ぶ、日本の古代文学では、比の鈴虫を松虫と呼び、松虫を鈴虫と呼んでゐる例もある。

秋草に配せられたりして、此の虫の画かるるもの少くない。

源氏物語』にも鈴虫の巻がある、光源氏五十歳の夏から秋までのことを記したもので、源氏も女三の宮が入道してからは、恰も身の罪が赦されたやうな気持がして、六条院に通つたが、丁度八月十五日、月面白き宵の物語が此の巻の中心となつてゐる。

十五夜の月のまだ影かくしたる夕暮に、仏の御前に宮おはして、端近うながめ給ひつゝ、念誦し給ふ、若き尼僧たち二三人、花奉るとて、ならすあかづきの音、水のけはひなど聞ゆるさま、かはりたるいとなみに、そゝきあへるいと哀なるに、例のわたり給ひて虫の音いとしげう乱るゝ夕かなとて我も忍びてうち誦し給ふ、阿弥陀の大呪、いとたうとくほのほの聞ゆ、実に声々聞えたる中に鈴虫のふり出でたるほどはなやかにをかし、秋の虫の声いづれとなき中に、松虫のなんすぐれたるとて、中宮の遥けき野辺を分けて、いとわざと尋ねとりつゝ、はなたせ給へる、しるく鳴きつつふるこそすくなかんなれ、名にはしたがひて、命の程はかなき虫にぞあるべき、心にまかせて人聞かぬ奥山、遥けき野の松原に、声をしまぬも、いとへだて心ある虫になんありける、鈴虫は心やすく、今めいたるこそらうたけれとの給へば、宮

大かたの秋をばうしとしりにしをふりすてがたきすゞむしの声

と忍びやかにの給ふ、いとなまめいて、あてにおほどかなり、いかにとかや、いで思の外なる御事にこそとて

こころもて草のやどりをいとへどもなほすゞむしの声ぞふりせぬ

など聞え給ひて、きんの琴召して珍らしく弾き給ふ。

と、此の優艶なる一場面は源氏絵としてよく画かれる。

(『東洋画題綜覧』金井紫雲)