早蕨

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さわらび


画題

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解説

画題辞典

源氏物語の一巻なり、うはそくの宮のかくれましてより、中の君にはあね君にもおくれさせ、獨り嘆きに沈み玉ふ折から、かねてうはそくの宮の御帰依厚かりし阿闍梨というひじりよりさわらびつく/\しなど籠に入れて、「この春は誰にか見せんなき人の かたみにつめる峯のさわらび」とよみて送り来れり、さればこの巻を早蕨とはいうなり。きさらぎの半ばにもなれば匂兵部卿の通ひそめらるゝありて、中の君もやがては二条院の西の対に移り住むに至りしとなり、源氏絵の一として画かる。

(『画題辞典』斎藤隆三)

東洋画題綜覧

源氏物語の一、薫大将二十五歳の時のこと、うばそくの宮が世を去つてから、中の君はひとり嘆きに沈んでゐると、予て、うばそくの宮の帰依厚かつた阿闍梨から、土筆など籠に入れて送る、巻の名は、その早蕨の歌からである。

阿闍梨のもとより、年あらたまりては、何事かおはしますらん、御祈祷はたゆみなく仕うまつり侍り、今は一所の御ことをなん、やすからず念じ聞えさするなど聞えて、蕨、土筆をかしき籠に入れて、これは童部の供養じて侍る、初穂なりとて奉れり、手はいとあしうて、歌はわざとがましく、ひき放ちてぞ書きたる。

君にとてあまたの春をつみしかば常をわすれぬはつわらびなり。

御前によみ申さしめ給へとあり、大事と思ひまはして、詠み出しつらんとおぼせば、歌の心ばへもいとあはれにて、なほざりにさしも思されぬなんめりと見ゆる言の葉を、めでたく好ましげに書き尽し給へる人の御文よりは、こよなくめとまりて涙もこぼるれば、返事かかせ給ふ。

この春はたれにか見せんなき人のかたみにつめる峰のさわらび

如月の半ばとなれば、匂宮中の君を二条院の西の対に迎へる、薫大将は今更のやうに失意に沈む。

源氏絵として画かれてゐる。

(『東洋画題綜覧』金井紫雲)