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8・車屋謡本

八―1・2

五番綴
車屋謡本
二冊

ARC蔵

室町末期〜
近世初期頃写

列帖装

鳥養流書体

鳥養流の書家、鳥養宗?が制作に関わった車屋謡本の一種である。宗?の署名はない。謡の本文の筆跡は、宗?筆と断定できるものとはやや異なるが、節付のしかたには宗?の特徴が見られる。
 本書の装幀は美術的にも価値が高いものに類しており、大名などの身分の高い人物が所持していたのではないかと思わせる。謡の稽古にどの程度実用されたかはわからない。
 ARCが所蔵するのは今回展示した二冊だが、 他の車屋謡本にも、本書と同様に五番綴で、計百 番(二〇冊)・ 百二十番(二四冊)などの番数を 収める本がある。

八―1

表紙
(赤題簽の冊)

  題簽に書かれているのは所収曲名で、順に「白鬚 ・田村・舎利・野守・飛雲」。実際には、これらの 曲の後に《大江山》 が筆写されていて全六曲から 成る。超人的な神や鬼の類をシテ(主役) とする 曲ばかりが収められている。
 墨で文人画風の雀・ 水鳥と叢をあしらい、
その上に金銀の箔を散らし、さらにその上に題簽
を貼ったらしい。裏表紙にも雁・雀が描かれる。

八―2

《反魂香》末尾
《藍染川》冒頭

(白題簽の冊)

謡の本文は、鳥養流書体で丁寧に書かれている。本文の右、墨譜の左に、小字で「ヲク」「大」(右の丁一行目)・「下」「中」(同二行目)など、謡の音の高さやリズムに関する注が記されている。このような書き込みは、多数の車屋謡本に見られる特徴である。
  料紙は雁皮紙で、この部分は、左右の丁が色替りになっており、右の丁の紙は、青い雲形文様を漉きこんだ、打曇り料紙である。通常と料紙の縦横の向きを変えて使っている。

八―A

赤題簽の冊
一丁目
(目次部分)

一丁目に、所収曲名を、鳥養流の達筆で仮名書主体に記している。このような曲名の列記(目次)は、車屋謡本の特徴の一つである。
 本冊の六曲目として写されている《大江山》の曲名は、題簽にもここにも記されていない。この本の制作がひとまず終わった後に、書き足されたらしい。

八―B

白題簽の冊
表紙

 題簽に書かれた所収曲名は、順に「雲雀山・ 透逃子・反魂香・藍染河・苅萱」。「透逃子」は、《弱法師》の珍しい別表記である。五曲ともすべて、離ればなれになった家族を訪ね求める筋を持つ。類似した趣の曲が意識して集められたのであろう。《弱法師》《反魂香》は、車屋謡本の中では本書だけに収められている。
  金銀の箔が散らしてあるのは赤題簽の冊と同じだが、こちらには絵はない。

八―C

赤題簽の冊
冒頭部分

最初の曲《白髭》の冒頭部分である。本書の本文はすべて鳥養流書体であるが、丁によって字形や丁寧さの程度など筆致にかなりの差がある。八―Cは、字が丸みを帯びている点や、墨の量が多い字と、線の細い字とを織り交ぜた点に特徴のある達筆である。実物の展示部分とは筆者が異なるらしく、本書の本文は複数の人物によって書写されたものと推測される。
  料紙は色替りになっているが、こちらの冊には打曇り料紙は用いられていない。

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