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1・光悦謡本

一―1

光悦謡本 特製本
熊野

慶長頃刊(原装本)

列帖装

光悦流書体

藤井永観文庫蔵

古活字版の全盛期だった慶長(一五九六〜一六一五)末年の刊行と推測される本である。本文には、観世流の節付がほどこされる。実用のためではなく、美術品として制作されたらしい。
 光悦謡本の中でも、最も美術的価値の高い「特製本」の一冊。料紙は、礬砂引(明礬を用いた表面加工)をした厚手の雁皮紙で、薄桃色・浅葱・萌葱など数色があり、曲によって異なる。この冊は、肌色がかった白色である。また「特製本」は、料紙の各丁に雲母刷の文様(雲母を用いた型文様)が入っているのが特徴で、展示した丁には、桐の花が刷られている。別の丁には、蔦・獅子丸牡丹・乱れ薄・梅枝の文様があり、同じ冊でも様々な文様の料紙を用いた、贅沢な本である。

一―2

同 実盛
表紙

慶長頃刊

列帖装

光悦流書体

藤井永観文庫蔵

一―1と同じ特製本。ただし、慶長年間(一五九六―一六一五)ではなく、後代に装幀されたかと推測される本である。
 表紙に雲母文様(雲母を用いた文様)があるのが、光悦謡本各種に通じる特徴である。《実盛》の冊の表紙は、地色が銀鼠色で、文様は菱十字唐草文様。料紙は萌葱。一―1《熊野》の冊の表紙(写真)は、地色が青磁色で、獅子丸牡丹文様を刷る。

一―3

光悦謡本 色替り本
江口

慶長頃刊(原装本)

列帖装

光悦流書体

藤井永観文庫蔵

料紙が色替り(丁によって地色が異なる)の光悦謡本。「特製本」と並んで、光悦謡本の中でも美術的価値が高い。この冊には、肌色がかった白色・浅葱・薄茶色・桃色の料紙が使われている。
 表紙の地色は銀鼠で、大蔦の雲母刷文様があり、題簽の剥落した跡がある。題簽の長さは特製本より短かったらしい。

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