松
まつ
画題
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解説
画題辞典
松は百木の長とする所にして、万年の壽を保ちて四時常に緑なり、故に長壽を祝し、又節操を改めざるを稱し、瑞祥として用ひられ、画かるゝ所極めて多し、「老松」「若松」、「稚松」、「白砂青松」、「老松旭日」、「松風月影」或は「松竹梅」「歳寒三友」、「松上羣鶴」、「松上孤鶴」、「巨松鷙鳥」、「松下高士」、「万年報喜」、「不老長春」など、何れも松樹に関する画題なり、その画かれたる實例は極めて多く、寧ろ擧ぐるの繁に堪へず、「松竹梅」以下は各その條下を見るべし。松に梅襖貼付(京都智積院所蔵国宝)松に草花四曲屏風(京都智積院所蔵国宝)松に梅四曲屏風(同)金地松図二曲屏風(京都法然院所蔵図画)俵屋宗達筆松図襖貼付八面(京都三十三間堂養源院図☆所国)
(『画題辞典』斎藤隆三)
東洋画題綜覧
松は松柏科に属する喬木で、葉は針状を呈し二本三本乃至五本一つとなつて生じ、雌雄同株であり雌花は多くの鱗片から成つた珠形若しくは卵形をなし、雄花は雄花丈け集つて穂状をなし雄花が花粉を散らすと雌花が之を受けて結実し所謂松毬となる、我が国に産する松の種類は、黒松、赤松、朝鮮松、五葉松、姫小松、偃松、落葉松、などがあり、此の外に琉球には琉球松、台湾には台湾松、新高黒松、台湾赤松があり奄美大島には奄美五葉松がある。
黒松、最も普通見る所のもの、一名姫松、我邦の海岸に見るは概ね黒松である、樹皮黒く葉太く硬く、先が尖つて針の如く二本づゝ出る。
赤松、赤松も普通に見る処のもの、黒松の海岸に多いのに対し山林に叢生する、幹の色の赤いので比の名があり、雌松ともいふ、大和絵などに現はれるのは此の松が多い。
五葉松、名の如く葉が一つところから五本づゝ出る、故に五釵松とも呼ぶ、黒松や赤松に比し葉が短く葉裏がやゝ白味を帯びてゐる。
姫小松、五葉松に略々似て居り、葉先がやゝ曲つてゐる点が異る。樹皮は鱗片をなしてゐるが樹皮は細かい。
朝鮮松、海松、新羅松、韓松、朝鮮五葉などと呼ぶ、葉は五葉松中で最も長く、実は長寿延命の秘薬と称せられてゐる。
偃松、這松、北海道、千島樺太をはじめ本州各地の高山地帯に自生する小喬木で、気候の上から自然に匍匐性となり、枝が平面に伸び蔓る。
落葉松、俗に『からまつ』といふ、支那では金銭松、高山地帯に自生し、春、枝々に豆のやうな芽を生じ日を経るに従つて成長し鮮緑となる、葉の出方が円形に見えるので金銭松の名があるわけ、群生してその樹相は雄大を極める、秋になると葉は黄変して落つ。
松は古来、目出度い樹として種々伝説や故事を有するので、従つて之に関した異名や雅名が極めて多い、十八公、偃蓋山、木長官、支離叟、木中山、宗老、酢子南、枯竜、不臣木、千歳材、歳寒枝などといひ、日本でも
手向草、初代草、色無草、延喜草、豊喜草、曇草、百草、千枝草などゝ呼ぶ、絵にはよく鶴が配せられるが、これは鸛〈こうのとり〉を鶴と見誤つたためで、鶴は樹上に巣をつくつたり登つたりせぬもの、この外に鷹が松に配せられる、目出度い樹であるから、絵画をはじめ凡ゆる芸術に多く交渉をもつてゐる、
松の名画二三を挙げる。
海北友松筆 『松原屏風』 帝室御物
俵屋宗達筆 『松原屏風』 西脇源三郎氏蔵
伝徽宗皇帝筆 『渓松風雨図』 京都久遠寺蔵
住吉具慶筆 『浜松襖絵』 京都青蓮院蔵
伝土佐光茂筆 『浜松屏風』 毛利公爵家蔵
伝狩野山楽筆 『梅松襖絵』 京都智積院蔵
長谷川等伯筆 『松林屏風』 福岡子爵家蔵
池大雅筆 『峻崖老松』 高野山遍照院蔵
円山応挙筆 『雪松図』 三井男爵家蔵
一立斎広重筆 『唐崎夜雨』
(『東洋画題綜覧』金井紫雲)