E1 口絵との出会い

銅版画から役者絵の収集に移った1997頃、神田神保町の古本屋店頭の廉価品を漁っていた時、ふと、一枚の絵が目に留まった。

透明感ある色彩と、すっきりした線に引き付けられた。
水彩画?日本画?肉筆の様で版画には見えなかった。
試しに一枚買った。
後に木版の口絵と知り奨められて店主所蔵分を数十枚まとめて手に入れた。

翌98年2月私がハワイ旅行でホノルル美術館に寄った時、司書になんとなく口絵所蔵の有無を尋ねた。
少し待たされて、司書が一人の男性を伴ってきた。これが木版画収集家のR氏との出会だった。
翌日、彼の口絵コレクションを見せられた。
彼はカリフォルニア大学バークレー校の図書館で口絵を調べているようで沢山質問を受けた。
帰国後、彼と口絵の出典解明のやり取りを、5,6回するうち、外国人の目に触発されて、口絵の美術品としての価値を確信した。

口絵の魅力を挙げてみると、何といっても、明るい透明感のある色彩、思いがけない構図、スピード感あふれる躊躇いのない彫と摺だ。
浮世絵系の絵師が西欧文化の風を受け浮世絵とは全く次元の違う絵を作り上げている。版画の作成法と使う絵具や材料は浮世絵と同じだ。
まるで尺八でフルートの曲を奏でるようだ。
A4番の小さい画面を、奥行き深く見えてないものを想像させる視線方向の使い方、描きすぎない余白の活かし方、描く対象の画面からのはみ出しや大胆なトリミングを使った構図の斬新さ。
異なる時空間、異なる場所を、一つの画面に収める工夫や、画面を二分割しても各々一枚の絵として成り立つ画面構成など、興味が尽きない。

1880年代頂点に達した木版の彫と摺りの技が浮世絵と共に滅びかけた時、心ある版元達の口絵制作によって、より一段上の彫摺の神業技術を完成させ、次代の新版画に繫いだ。
又、口絵は小説の主人公紹介や、物語の進展を想像させ、読者の期待が膨らむ。
あるいは、TVの無い時代当時のファッションやアイドルを伝えるものとして、現代のビジュアル誌の役割を果たしていた。
文芸倶楽部の口絵は日本の四季や、年中行事を伝える風物詩でもある。

口絵には前提に文章があり、作家が関与しているのが、江戸の錦絵との一番の違いだ。(後に文と繋がりのない口絵が出てくるが)
錦絵(浮世絵)描画の基本には骨法があるが、口絵はスケッチだ、印象派の影響を受けた浮世絵系絵師たちの伝統を昇華させた画法が私の目になじむ。

口絵はいろんな角度から鑑賞出来て、興味が尽きない。

(朝日智雄)

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