B04所作事と音曲、舞台の照明

「大江戸しばゐねんぢうぎゃうじ」「さし出し・かんてら」
English Commentary
絵師:吟光 判型:大判/錦絵
出版:明治30年(1897)東京
資料番号:arcUP2062 所蔵:立命館ARC.

【翻刻】
さし出し・かんてら
昔の芝居にはさし出し 俗に面明りと唱え 役者が指す手引く手と共に 左右の燭を持て之を照らし 又舞台前かんてらと称し蝋燭立を挿す 此図は其昔三ヶの津第一の立お山(女形)中村富十郎が始めて京鹿の子娘道成寺の所作を演じたる所を写し 差出しかんてらのさまを示す   千秋誌
さし出しや すかたの花に 舞ふ蝴蝶

【解説】
 電気照明が出てくる以前は、舞台の照明効果はどのように工夫されていたのであろうか。舞台には屋根があるから全体的に劇場内はかなり暗かっただろうと想像できる。そのため、図のように、舞台前面にカンテラと称する燭台を置き、蝋燭による明かりで舞台を照らした。また、スポットライトの代わりに、柄を長く延ばした燭台で、役者の顔の付近に明かりをもっていき、面明かりとした。本図では、それを上下を着けた役者が行っているが、これは、「娘道成寺」という古典的な舞踊であるためで、通常の写実的な舞台では、黒衣がこれを行った。
 本図は、宝暦期(1751~1764)を頂点とする初代中村富十郎が「京鹿子娘道成寺」の白拍子花子を演じている場面であるとするが、もちろん初演当時の舞台を写したものではなく、幕末頃の舞台の雰囲気を伝えている。(a.)

【用語解説】
 差出し、面明り、カンテラ、三ヶ津、立女形、中村富十郎、京鹿子娘道成寺

【関連コーナー】
演技と演出」「音響と音楽