東海道四谷怪談<とうかいどうよつやかいだん>

  現代でも「四谷怪談」としてよく知られる『東海道四谷怪談』は、夫の伊右衛門から邪険にされた上、毒薬により顔が醜くなって憤死したお岩が、怨霊となって伊右衛門や自分をおとしめた人々に祟るという怪談。文政8(1825)年7月江戸の中村座で初演された四世鶴屋南北の代表作の一つで、工夫を凝らした幽霊の仕掛けや、文化文政期(1804~1829)の庶民生活をリアルに描いた作品としても評価されている。 
  初演時は『仮名手本忠臣蔵』と組み合わせて二つの狂言を二日がかりで上演した。本展示の絵本番付は、上演内容の異なる一日目(展示№47)と二日目の(展示№48)二種類の絵本番付を展示している。初演では三代目尾上菊五郎がお岩役を演じて人気を呼び、その後も江戸・上方共に何度も再演された。また書替え作品も数多くつくられたことにより、様々なジャンルにまで浸透し、四谷怪談人気は脈々と現代の我々まで続いている。
  展示46は、伊右衛門によって殺された父の四谷左門<よつやさもん>の変わり果てた姿を見つけたお岩が、左門の敵討のためと何食わぬ顔で伊右衛門から復縁を迫られる場面。画面奥には遺体が転がっている。
 伊右衛門との復縁後、産後の病に苦しむお岩は伊藤家に薬と騙されて毒薬を飲み、顔が醜く崩れる。醜いお岩は伊右衛門の裏切りと伊藤の策略を知って、半狂乱となり非業な最期を遂げる。お岩の死体と、伊右衛門が惨殺した召仕の小仏小平<こぼとけこへい>を戸板の表と裏に括られて川に流されるが、この二人は恨みを持つ死霊となって伊右衛門を苦しめる。
 展示№52は、有名な戸板返しの場面。隠亡堀<おんぼうぼり>で釣りをする伊右衛門が流れてきた戸板を引き寄せると醜いお岩の死体があらわれる。驚いた伊右衛門が戸板を裏返すと、手が蛇のように変化した小平があらわれて伊右衛門に迫る。
  お岩の死霊に長年苦しめられた伊右衛門が、熱病にうなされて振袖姿の美しいお岩の夢を見るのが夢の場(展示№49~51)。夏の盂蘭盆会<うらぼんえ>の頃、若殿姿の伊右衛門は振袖姿の美しい娘に惹かれて情を交わす。しかし、この娘はお岩の死霊で、徐々に正体が露見していく。展示№5051は、お岩の正体が露見する前後の様子を描き分けている。振袖には蔦や萩と芒が描かれ季節を感じさせるが、今まさに娘の正体が現れようとする展示№50には、振袖から蛇が覗き、縁側にはお岩を暗示する鼠が描かれている。大坂で出版された挿絵入り歌舞伎台本(展示№49)の表紙にも鼠が描かれ、子年生まれのお岩を暗示する象徴的な動物として劇中にも度々登場する。この本には仕掛けが施されており、挿絵の一部を折り返すと美しい娘が醜いお岩の怨霊に変わる。

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