雲がくれ くもがくれ
1冊

袋綴1冊。虫食いのため裏張り補強されているが、文字が読めなくなるほどの被害ではない。改装表紙寸法縦27.5cm×横20.2cm。香色の表紙には題簽(19cm×3.5cm)が貼られているが、外題はなし。全13丁中本文9丁の前と後ろに2丁ずつ遊紙があり、前付遊紙の2丁目表に「雲かくれ」の貼紙(24cm×5cm)が貼られている。本文は10行。挿絵が2箇所挿入されている。刊記はなし。

『源氏物語』は、幻巻と匂宮巻との間に8年間の空白がある。8年の間に源氏が出家し亡くなっており、中世以降本文のない雲隠巻を置くことが定着している。古くは正治元年(1199)の『白造紙』の「源氏の目録」に「廿六クモカクレ」と見られ、文永元年(1264)頃には成立していたといわれる『紫明抄』には、「もとよりなし」とあり、かなり早い時期から雲隠巻が置かれるようになったことが伺える。

その空白を後代の読者が想像して書いたのが『雲隠六帖』である。光源氏の出家と死などが語られる雲隠の他、巣守、桜人、法師、ひはり子、八橋の六帖である。ただし、雲隠の他は、夢浮橋巻以降の後日譚(浮舟の還俗、薫との結婚、匂宮の即位等)を創作している。
『雲隠六帖』の本文は、現存伝本では版本系の流布本と別本系(愛知県立女子大学本他)に大別され、また刊本には上方版と江戸版があり挿絵も異なる。本書は流布版本系統であり、最初の刊本である寛文十年(1670)以前の上方版無刊記9冊本(『雲隠六帖』と浅井了意の注釈による『雲隠六帖抄』3冊の計9冊)に近似している。京都大学文学部所蔵のものと比べると、若干ふりがな・濁点の非表記はあるが、仮名の形、1行中の文字数等同様で、挿絵も筆の揺れが見られるものの、同じ絵柄である。この刊本を忠実に書写した写本である可能性が高い。