「伊勢物語」は六歌仙である在原業平の和歌を軸に紡がれた物語であり、多くの章段において業平とおぼしき男が登場する。原初の形からいくつかの増補の過程をたどって成立したとされ、鎌倉時代初期に藤原定家によって校合が行われた本文が現在読まれる「伊勢物語」の基となっている。本書もその流れを汲むものである。「伊勢物語」の題僉を付した漆塗りの箱入り、 表装は緞子地、見返しに金銀粉がほどこされた美麗な本である。「伊勢物語」のみやびな世界観が、成立以来様々な形で愛好されてきたことがうかがえる。