005-0404

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総合

東海道五十三対 石部 

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【翻刻】

いせもとりならふ枕の二見潟かたき石部てとらる合宿  梅屋

絵師:国芳

彫師:不明


【題材】

「いせもとり」「石部」「合宿」ということから、『桂川連理柵』をはじめとするお半・長右衛門ものだと思われる。描かれているのはお半。


【桂川連理柵】

人形浄瑠璃。世話物・菅専助作。通称《桂川》《お半長右衛門》 安永五年(1776)十月大阪・北堀江市の側芝居で初演。宝暦十一年(1761)四月十二日、三十八歳の帯屋長右衛門が、大阪へ奉公にいく隣家の十四になる信濃屋娘お半を伴う途中、桂川で殺された事件が題材で、これを戯曲では心中とした。劇化の最初は宝暦十一年五月十八日の刊記をもつ正本『曽根崎模様』で、お初・徳兵衛の『曽根崎心中』にお半・長右衛門の心中をからませたもの。引き続き、明和九年(1772)五月大阪・市山座の切狂言『桂川』あるいは同年七月の大阪・豊竹和歌三座の人形浄瑠璃『かつら川』などを経て、本作に至る。歌舞伎に移された最初は、天明四年(1784)五月大阪・嵐他人座。

伊勢参宮帰りのお半と長吉は、途中石部の宿にて長右衛門と一緒になり、かねてから長吉の横恋慕に閉口していたお半は長右衛門に合宿を頼む。その夜悪戯をはたらこうとした長吉から逃げてきたお半は、長右衛門に一緒に寝て欲しいと頼み、一晩を過ごすことに。その後長右衛門はお半を妻お絹の弟才次郎と縁組させようとするが、お半は懐妊しており、長右衛門は書置きを残して桂川へ向かったお半を追って、ふたりは心中する。


【石部】

滋賀県。古くは「いそべ」とも呼ぶ。野洲川の南岸に位置し、地域内を野洲川と並行して現在は国道1号・旧東海道が通る。


【二見潟】

三重県。五十鈴川河口右岸の今一色から夫婦岩のある立石崎までの約五キロの海岸。二見浦・二見ヶ浦・二見沖などとも呼ばれている。夫婦岩とは、二つの岩が夫婦のように寄り添っていることから名づけられる岩。全国各地に夫婦岩は存在するが、特にこの三重県伊勢市の二見潟の夫婦岩は有名。


【房楊枝】

お半が手に持っているのは房楊枝といい、江戸時代の歯ブラシのことである。逆の手に持った水の入った茶碗は、うがい用のものだと推測される。また肩にかけた手拭い、少し着崩れした着物などから、朝の支度の最中だと想像出来る。



【その他のお半】

お半を題材として描いているその他の絵の中でも、この絵のように水の入った器を描いているものもいくつかある。 それらは石部の宿でのことではなく、帯屋の場を描いたものであるから、この東海道五十三対とは「水のたらい」という共通点はあっても違う場を描いたものと考えられる。

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【考察】

この絵において、身支度を整えているように見えるお半。しかし『桂川連理柵』の作中では、お半が身支度を整えるような場面はない。また作中には雀の出てくるくだりもないにもかかわらず、この絵の中で雀がとても大きな存在感をあらわしていることも注目したい。

作中で長右衛門の妻のお絹が、お絹の弟才次郎との縁組を嫌がったお半に対して『八百屋お七』を例に出し親不孝であると言う。 親不孝といえば有名なものが昔話の『雀孝行』であるが、雀孝行では昔姉妹だった啄木鳥と雀の親が危篤となり、すぐにかけつけた妹の雀は親の死に目に間に合い、姉の啄木鳥は身づくろいに時間がかかってしまって間に合わず、以来孝行者の雀は五穀を満足に食べることができるが、不孝ものの啄木鳥は木の皮をつついて餌を求めることになったとされている。『桂川連理柵』の作中で不孝者と言われたお半を、絵の中で雀と並べることによって、雀の姉の不孝者啄木鳥と重ねていおり、お半が作中にない身支度する場面の姿で描かれているのも、その啄木鳥の不孝の元となった身づくろいとかけているのではないだろうか。



【参考文献】

『新潮日本古典集成 浄瑠璃集』 土田衛 新潮社 昭和60年 

『艶本紀行 東海道五十三次』 林美一 河出書房新社 昭和61年

『国立文楽劇場上演資料集13』 国立劇場 昭和61年

『国立文楽劇場上演資料集21』 国立劇場 平成元年

『世界大博物図鑑 第4巻 鳥類』 荒俣宏 1987年

『角川日本地名大辞典 三重県』 角川書店 昭和58年

『角川日本地名大辞典 滋賀県』 角川書店 昭和54年

『日本歴史地名体系第24巻 三重県の地名』 平凡社 1983年

『歌舞伎登場人物事典』 白水社 2006年

『歌舞伎・浄瑠璃外題事典』 紀伊国屋書店 1991年

『歌舞伎事典』 平凡社 1983年

【参考サイト】

http://www.dentalpark.net/etc_hana_02.html

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%AB%E5%A9%A6%E5%B2%A9