達磨
だるま
画題
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解説
画題辞典
菩提逹磨という、又禅法東渡の鼻祖なるが故に単に祖師ともいう。印度国香至王の第三子にして幼名を菩提多羅といい、父死後出家し、二十七祖般若多羅に法を受け逹磨と改む、直指人身見性成仏の一語は其の大悟の際に発せる格言なり、大法を支那に伝へんとし、跋渉三年の長日月を経て支那に入り、梁朝の普通元年を以て武帝に謁す、武帝は仏心天子と称せし程にて仏教を信奉せし人なれども、教迹に滞りて真諦に徹し居られざりしを以て、道を問はれたる際に、廓然無聖の一語を残して、去りて江北に赴き、嵩山の少林寺に歯止し、壁に面して定坐すること九年、魏の孝明帝再三召せども立たず、僅に真骨頭を二祖慧可に伝へ、後、禹門の千聖寺に往き、梁の大通二年十日を以て寂す、実に西天東土絶代の大宗師と崇むる所にして、禅家に盛に其像を写し、後世禅家と画家とを問はずに之を描くに至る、我邦にても禅宗渡来以後、兆殿司、啓書記、雪舟、雪村より、近代の諸家に至るまで之を図するもの極めて多し、就中、今に伝りて名あるもの、
牧渓筆達磨図(京都真珠庵所蔵国宝)、牧渓筆達磨図(京都慈照院所蔵国宝)、初代曲直瀬道三遺愛前田家旧蔵(モト東山御物雑華居ノ印アリ)、顔輝筆円窓達磨図(佐竹侯爵旧蔵)、 顔輝筆達磨図(秋元子爵旧蔵)、月澗筆達磨図(伊達伯爵旧蔵)、筆者不明達磨図(甲斐向嶽寺所蔵国宝)、明兆筆達磨蝦墓鉄拐三幅対(京都東福寺所蔵国宝)、伝曽我蛇足筆達磨臨済徳山三幅対(京都養徳院所蔵国宝)、啓書記筆達磨図(京都南禅寺所蔵国宝)、同(浅野侯爵所蔵)、雪舟筆達磨図(佐竹侯爵旧蔵)、明兆筆達磨図(近衛公爵旧蔵)、狩野元信筆釈迦達磨臨済三幅対(京都聖光院所蔵)、曽我蛇足筆達磨図(松井子爵旧蔵)、相阿弥筆達磨図(井上侯爵所蔵)
等あり、その他宮本武蔵筆(九鬼子爵蔵)、狩野探幽狩野常信近くは渡辺崋山橋本雅邦等の作あり、横山大観が一変態の逹磨亦知らる。尚「祖師問答」「渡海達磨」「隻履逹磨」等参照ずべし。
(『画題辞典』斎藤隆三)
東洋画題綜覧
達磨は菩提達磨といふ、南印度香至国王の第三子で、刹帝利種に属し、法を般若多羅に受けた、菩提達磨の名は、その師より与へられたものである、五印度を教化すること六十年、梁の普通元年九月廿一日漢土に来り、教外別伝の禅宗の教義を伝来した、初め武帝に謁して対談したが、帝の思想浅薄にして未だ悟道を示すべき機にあらざるを知り、遂に江を渡つて魏に赴き、嵩山の少林寺に入り壁に面して座し終日黙想すること九年に及ぶ、人これを測り知らず、称して壁観婆羅門といふ。かくて法脈を漢土第二祖慧可に伝へ、袈裟と『吾本来茲土、伝法救迷情一花開五葉、結果自然成』の偈を附し、且曰く却後に難生ぜば、この法衣と偈とを以て表明せよ、我が滅後二百年にして衣は止つて伝はらず、されど法は沙界に遍からむと、呉門の千聖寺に行き止まること三日、梁の大通二年十月五日入寂した、嵩州の熊耳山に葬り、塔を少林寺に建つ、唐の代宗、円覚大師と諡した。 (仏教辞林)
更に『伝灯録』の達磨伝を引く。
菩提達磨者、南天竺国香至王第三子也、達于南海、実梁普通八年丁未歳九月廿一日也、広州刺史蕭昂、具主体迎接、表聞武帝、覧奏遣使、齎迎請十月一日至金陵、帝問曰、朕即位已来造寺写経度僧不可勝紀、有何功徳、師曰、並無功徳帝曰、何以無功徳、師曰、此但人天小果有漏之因、如影随形雖有非実、帝曰、如何是真功徳、答曰、浄智妙円体自空寂、如是、功徳不以世求、帝又問如何是聖諦第一義、師曰、廓然無聖、帝曰朕対者誰、師日不識、帝不領悟、師知機不契是月十九日廻江北十一月二十三日届于洛陽、当後魏孝明太和十年也、寓止嵩山少林寺、面壁而坐、終日黙然人莫之測、謂之壁観婆羅門云々、孝明帝聞師異跡、遣使齎詔徴、前後三至師不下少林、帝弥加欽尚、就賜衲袈裟二領金鉢銀水瓶繒帛等、師牢譲三返帝意弥堅、師乃受之自弥緇白之衆倍加信向云々、師謂慧可曰、吾有繒伽経四巻赤用付、汝即是如来心地要門也、令諸衆生開示悟入云々、師端居而逝、即後魏孝明帝太和十九年丙辰歳十月五日也、其年十二月廿八日葬熊耳山、起塔於少林寺、後三歳魏宋雲奉使西域廻遇師于葱嶺、見手携隻履翩々独逝、雲問師何住、師曰、西天去、又謂雲曰、汝主己厭世、雲聞之茫然別師、東邁曁復命即明帝己登遐矣、而孝荘即位、雲具奏其事帝令啓壙、唯空棺一隻革履存焉、挙朝為之驚歎、奉詔取遺履於少林寺供養。
達磨は道釈人物中の好画題として、古来各派に於て盛に画かれ殆んど枚挙に遑もない、有名な作を左に列挙する。
牧谿筆 (国宝) 京都真珠院蔵
啓書記筆 (同) 京都南禅寺蔵
明兆筆 蝦蟇鉄拐三幅対(同) 京都東福寺蔵
伝蛇足筆 徳山臨済三幅対(同) 京都養徳院蔵
筆者不明 (国宝) 甲斐向嶽寺蔵
明兆筆 (重要美術品) 後藤道明氏蔵
立原杏所筆 (同上) 尾張徳川栄明会蔵
牧谿筆 藤田男爵家旧蔵
雪舟筆 佐竹侯爵家旧蔵
牧谿筆 (東山御物) 川崎男爵家旧蔵
相阿弥筆 郷男爵家旧蔵
秋月筆 有賀長文氏旧蔵
狩野探幽筆 紀州徳川家旧蔵
松花堂筆 同上
円山応挙筆 松本双軒庵旧蔵
(『東洋画題綜覧』金井紫雲)