総合
出端(では)
基本解説
囃子事の一種。後場の冒頭などで諸役が登場する際に演奏される登場楽の一つ。打楽器が拍節型リズムを持つ囃子事で、直後には[サシ][一セイ]などの非拍節型の謡事の小段が来る。
音楽的特徴
笛・小鼓・大鼓・太鼓によって演奏される。
打楽器は拍節型のノリ拍子である。笛は非拍節型のアシライ拍子で、部分的に演奏される。太鼓が、出端の演奏の軸となっている。
基本は三段構成であるが、曲柄やシテの登場の仕方によって変化があり、主として段数が減少する。特に二段目(「越ノ段」と呼ばれる)を省略する場合が多い。
名称の由来
出端は、能の用語で古く退場を意味した入端に対する語として使われた言葉が、登場楽を指す言葉に転じたものと推測される。
出端の名称は、歴史資料の中では、室町時代後期(16世紀後半)にはじめて見える。
早笛(はやふえ)
基本解説
囃子事の一種。後場の冒頭などで、諸役が登場する際に演奏される登場楽の一つ。拍節型リズムを持つ囃子事で、直後には[ノリ地]などの拍節型、あるいは[名ノリグリ]などの非拍節型の謡事の小段が来る。
音楽的特徴
笛・小鼓・大鼓によって演奏される場合と、これに太鼓が加わる場合とがある。
笛・鼓ともに拍節型のノリ拍子である。
笛の譜七クサリを一巡とし、笛・小鼓・大鼓によって演奏される場合は各段二巡の二段構成、太鼓が加わる場合は曲によって長さが異なり、笛の一巡を繰り返す回数が違っている。
名称の由来
登場楽の中で、最も早い調子で演奏されることから付けられた名称と推測される。特に笛を冠したのは、専用の譜が用いられているためであろう。
早笛の名称は、歴史資料上では、室町時代後期(16世紀後半)にはじめて見える。
一声(いっせい)
基本解説
囃子事の一種。〔次第〕と並んで、能の登場楽の代表であると言える。拍節型リズムを持つ囃子事で、シテやワキの登場の段の最初に囃され、その囃子の間に役が登場する。直後に[サシ][一セイ]などの非拍節型の小段が来る。
〔一声〕の本格的な形式を持つ囃子事に〔真ノ一声〕があり、脇能の前シテの登場部分に囃されるのを基本とする。〔一声〕はその略式の囃子事という位置付けである。
音楽的特徴
笛・小鼓・大鼓によって囃される(太鼓は加わらない)。
鼓は拍節型のノリ拍子である。笛は非拍節型のアシライ拍子で、部分的に奏される。
基本的には全4段から成るが、〔一声〕は技法によってさらに数種に分類することができ、その中の一部は段数も異なる。とくに、技法によって分類された〔一声〕のそれぞれは、二段目(「越ノ段」と呼ばれる)の手が異なり、「越ノ段」のない〔一声〕もある(「コサズ」と呼ぶ)。曲柄・役柄によって、どの種類が用いられるかが決まっている。
〔一声〕は多くの曲で用いられるが、曲柄によって位が異なり、位取りに幅のある囃子事である。
〔一声〕の一種と見なしうる囃子事に〔真ノ一声〕〔習ノ一声〕があり、速度や技法(手)が異なるが、これも根本的には位取りという思想によって生じた分類である。〔一声〕の中の細かい分類(上記)も、同じく基本的には位取りの思想によるものであると言える。
〔一声〕は、登場楽であることのほかに音楽技法面から見ても〔次第〕と関連が深く、ごく大まかに言うと、〔一声〕の鼓の手を非拍節型リズムのサシ拍子で奏したものが〔次第〕に近い。歴史的に見て、両者の源は同じであった可能性が高い。
名称の由来
〔一声〕は謡を伴う[一セイ]の小段と関連が深く、基本的には[一セイ]の前に囃される囃子事という意味で、〔一声〕と呼ばれてきたものと推測される。
ただし実際には、〔一声〕の直後に[一セイ]以外の小段が来る例も多い。
囃子事の〔一声〕の名称は、歴史資料上では、室町時代中期(15~16世紀)にはじめて見える。
能の時間構成における特徴
「名称の由来」の項にも記したとおり、〔一声〕の名称は、[一セイ]の小段の前に囃される囃子事という意味であると考えられる。しかし、実際の例では、〔一声〕の直後に来る小段としては[サシ]が最も多く、[サシ]などを挿んで、その後に[一セイ]が連なっていることも多い。この点では、〔次第〕の直後に必ず[次第]が来るのとは異なる。
ただし、[一セイ]の直前に登場楽がある場合には、その登場楽は必ず〔一声〕である。また、〔一声〕の本格的な形式を持つ〔真ノ一声〕の直後には、必ず[一セイ]が来る。
このように、〔一声〕の直後には[一セイ]が来るとは限らないが、直後に来るのは決まって非拍節型の小段であり、鼓のリズムが拍節型である〔一声〕と対照的である。
このように、拍節型のリズムを持つ囃子事と、非拍節型のリズムを持つ小段との組み合わせによって、
- 囃子事(囃子を音楽的要素とする謡のない小段)⇔謡事(謡を中心とした小段)
- 拍節型⇔非拍節型
の二種のコントラストを形成し、音楽的に変化が付けられるという効果をもたらす。
大ベシ(おおべし)
基本解説
囃子事の一種。後場の冒頭などで後シテが登場する際に演奏される登場楽の一つ。拍節型リズムを持つ囃子事で、直後には[名ノリグリ]などの非拍節型の謡事の小段が来る。笛の譜は早笛の譜とほとんど同じであり、本来は同一の囃子事であった可能性がある。大ベシは、比較的緩やかなテンポを持つ点が、テンポの急速な早笛と大きく異なる。
音楽的特徴
笛・小鼓・大鼓・太鼓によって演奏される。
笛・鼓ともに拍節型のノリ拍子である。
笛の譜五クサリを一巡とし、初段二巡、二段目不定数の二段構成である。二段目は曲によって長さが異なる。
名称の由来
天狗など大☆e見の能面を着ける役の登場に演奏されることから付けられた名称であると推測される。
大ベシの名称は、歴史資料の中では、室町時代後期(16世紀後半)にはじめて見える。
来序(らいじょ)
基本解説
囃子事の一種。中入の段で、前シテやツレが、退場する際に演奏される退場楽。打楽器のリズム型は来序特有の特殊型である。退場楽なので、直後には謡事の小段はなく、そのまま間狂言の登場楽である狂言来序へと転ずる。類似の囃子事に真ノ来序があるが、こちらは登場楽である。本来は同一の囃子事であった可能性がある。
音楽的特徴
笛・小鼓・大鼓・太鼓によって演奏される。
鼓と太鼓は特殊拍子であるが、笛は非拍節型のアシライ拍子で演奏される。
段数はなく、二節から成る。節の区切りは、太鼓が崩シノ手を演奏することによって分けられている。
名称の由来
来序は古く雷声・乱声とも書かれた。それはこの囃子事が雅楽の乱声に由来するからではないかと考えられる。ただし、現在の演奏は、雅楽の乱声の演奏とは似ていない。
来序の名称は、雷声という表記で、室町時代末期(16世紀末)の歴史資料にはじめて見える。
== 次第(しだい)
基本解説
囃子事の一種。非拍節型の囃子で、シテやワキの登場の段の最初に囃され、その囃子の間に役が登場する。直後に[次第]の小段が来る。囃子事の〔一声〕と笛のメロディ・鼓の手の基本は同じであるが、〔一声〕は鼓のリズムが拍節型であり、〔次第〕は非拍節型である点が異なる。〔一声〕と〔次第〕とはもとは一つの囃子事であったものが、リズムに変化が生じて二種に分かれたと推測される。
=== 音楽的特徴
笛・小鼓・大鼓によって演奏される(太鼓は加わらない)。
笛・鼓ともに、非拍節型のアシライ拍子で演奏される。笛は全体を演奏せず、部分的に演奏する。
基本的に二段構成と考えられるが、カカリと呼ばれる冒頭の部分を一段と数えて三段とする流派もある。
〔次第〕は様々な曲に用いられる囃子事だが、曲によって演奏の位に違いがあり、位取りに幅のある囃子事であると言える。
〔次第〕の類型に〔習ノ次第〕〔真ノ次第〕があり、それぞれ演奏の速度や
手組みに違いがあるが、これらも曲の位取りの考えに基づいて派生したものと考えられる。
名称の由来
〔次第〕は謡を伴う[次第]の小段と関連が深く、基本的には[次第]の前に演奏される囃子事という意味で〔次第〕と呼ばれるようになったと推測される。
囃子事の〔次第〕の名称は、歴史資料の中では、室町時代中期(15~16世紀)にはじめて見える。