勿来関
なこそのせき
画題
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解説
画題辞典
往昔常陸陸奥国境の関にして、その遺址今常陸国多賀郡関本村にあり、曽つて八幡太郎義家、朝命を奉じ陸奥の国乱を鎮めんとして下向の途上、此地を過ぎ、落花の繽紛たるを見て、一首の和歌を詠ず。曰く
吹く風をなこそのせきと思へども 道も瀬に散る山櫻花
歌載せて千載集にあり、之れより勿来の名著聞す、武人風流の嗜とて、此こと画かるゝ所亦多し。
久隅守景筆(原富太郎氏所蔵)、狩野伊川筆(東京帝室博物館所蔵)、住吉慶舟筆(同上)
(『画題辞典』斎藤隆三)
東洋画題綜覧
中古常陸から陸奥に通ずる海道の関、いま磐城国石城郡窪田村に属す、源義家が『吹く風を勿来の関と思へどもみちもせに散る山ざくらかな』の吟詠によつて世に知らる。
みなもとのよしいえ「源義家」の項を見よ。
(『東洋画題綜覧』金井紫雲)
常陸国多賀郡関本村にある、新編常陸国誌に『多珂郡関本村の北に方り陸奥菊多郡の界なり、往昔の関趾今に石祠二あり、一を関東宮とし、一を奥州宮と云ふ』云々、義家此処を過ぐる時、落花を詠じたること千載集にあるが、好個の画題として、古来大和絵の人々により多く画かれてゐる。
みちのくにまかりける時なこその関にて花の散りければ詠める
吹く風をなこそのせきとおもへども道もせに散るやま桜かな (千載集)
八幡太郎義家の像、及び、勿来関、雁行の乱れ等を図した主なもの左の通り。
土佐光芳筆 『義家肖像』 池田侯爵家旧蔵
慶舟広当筆 『義家貞任』 同
渡辺始興筆 『八幡太郎絵詞』 東京帝室博物館蔵
冷泉為恭筆 『勿来関』 松本双軒庵旧蔵
宇喜多一蕙筆 『同上』 岸上家旧蔵
板谷慶舟筆 『勿来関』 東京帝室博物館蔵
田中訥言筆 『雁行乱知伏兵』 藤田男爵家旧蔵
前九年合戦絵詞 原本不伝
土佐守惟久筆 『後三年役絵巻』 池田侯爵家旧蔵
狩野伊川院筆 大村伯爵家旧蔵
久隅守景筆 『勿来関』 原善一郎氏蔵
菊池契月筆 『義家鳴弦』 昭和十三年尚美展
同 『加冠義家』 京都美術倶楽部陳列
(『東洋画題綜覧』金井紫雲)