八橋
やつはし
画題
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解説
画題辞典
八橋は杜若の名所にして、三河国碧海郡牛橋町に在り、池鯉鮒より東方十餘町なり、伊勢物語及芭蕉の句等にて有名なり、在原業平東下の折此地に迷ひ入るとなり、河の水出で蜘手なれば、橋を八つ渡して八つ橋といふといふ、澤邊に杜若多くあり、即ち「かきつばた」の五字を句の頭に据ゑて旅の心な讀めとありければ、業平からころもきつゝなれにしつましあればはる/\きぬるたびをしぞおもふ人々哀れと思ひ落涙しけるとなり、業平の條見るべし、八つ橋を画けるもの、緒方光琳の筆、東京帝室博物館に在り、緒方乾山の作某氏所蔵にあり、共に業平の故事なり、八つ橋の杜若を画きし屏風松平子爵旧蔵にあり。
(『画題辞典』斎藤隆三)
東洋画題綜覧
三河国の杜若の名所、『伊勢物語』によつて名高い、その文を引く。
三河の国八橋といふ所にいたりぬ、そこを八橋といふことは、水の蜘蛛手に流れ別れて木八つわたせるによりてなん、八橋とはいへる、その沢の辺の木蔭におりゐて、餉くひけり、その沢にかきつばたいとおもしろく咲たり、それを見てある人のいはく、かきつばたといふ五文字を句の上にすゑて旅のこころをよめといひければ、よめる
唐衣きつゝなれにしつましあればはる/゙\来ぬる旅をしぞおもふ
とよめりければ、みな人、餉の上になみだ落してほとびにけり。
この『伊勢物語』の八橋を画いたものに尾形光琳の名作がある。(東京帝室博物館蔵)
(『東洋画題綜覧』金井紫雲)