懸想文売
けそうぶみうり
画題
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解説
東洋画題綜覧
昔、正月の初に、京都市中に、懸想文と云ふのを売り歩く者があつた、懸想丈売と云ふ、其の文の一例、『筧の氷の解くるを便りに、山の端の笑顔もやと、難波の芦の短き筆を染めまゐらす、御髪は柳の糸のゆらゆらと、芽出度、雪の叢濃の御元結云々、梓弓引かば寄らむの御返事もあらば明日の子の日は共に千代もと祝ひまゐらせ候かしく』などである、未嫁の女など、これを買うて良縁を占つたと云ふ、売る者の扮装は、赤い布衣に赤袴高くからげ、烏帽子をかぶり、白布で顔を包み、花の枝に文をつけたと云ふ、後には文ではなく畳紙に洗米二三粒入れたのを渡し、望むにまかせて夫婦のこと、商売のことなど、さま/゙\の祝言を云つたといふ。 (大言海)
除夜に懸想文といふものを売を買て、元旦に是をひらき、其年の運をうらなふこと、元禄の比ほひまでありしならはしとぞ、けそう文といふは、艶書の事なると、彼うりける文は、女文などのさまにかける故に此名ありや、或は此文にて、未嫁女の縁のよしあしを占ひしともいへり、予其文を見ざれば、さだかなることをしらず、一老人いふ、板に彫て売物にする文に、凶事のいま/\しきことをやは書くべき、是をもて吉凶をうらなひしは、愚に直き事なり、今世の黠智盛なる人々は執用ず、廃れしもことわりなりといへり。 (閑田耕筆)
(『東洋画題綜覧』金井紫雲)