方丈記
ほうじょうき
画題
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解説
東洋画題綜覧
鎌倉時代の随筆、鴨長明の著、『行く川の流れは絶えずしてしかも本の水にあらず』の書き出しから人の世の無情を叙し、それが実例として火事、旋風、飢饉、地震等の恐しいさまを記し、更に世を厭ひ日野の外山に方丈の庵を結びその人生観に結んでゐる、文章典雅流暢を極めてゐる。
これを画いたものに左の作がある。
伊藤竜涯筆 第六回帝展出品
(『東洋画題綜覧』金井紫雲)
鴨長明の随筆、建暦の頃長明世を厭ひ山城日野の奥外山に方丈の庵を結び幽居してゐる時のことどもを記したもので行く水に人生の無常を観じ、安元の大火、治承の辻風、養和の飢饉、元暦の地震など人事の転変を説き、その人生観を以て結んでゐる、その初句を引く
行く水の流は経えずして、しかも本の水にあらず、よどみに浮ぶうたかたは、かつ消えかつ結びて久しくとゞまることなし、世の中にある人と住家と、またかくの如し、玉敷の都の中に棟を並ベ薨を争へる、尊き卑しき人の住居は代々を経て尽せぬものなれど、これをまことかと尋ぬれば、昔ありし家は稀なり、或は去年破れて今年は造り、あるは大家滅びて小家となる、住む人もこれに同じ、処もかはらず、人もおほかれど、いにしへ見し人は二三十人か中に僅に一人二人なり、朝に死し、夕に生来りて何かたへか去る、又知らず、仮の宿、誰が為に心を悩まし何によりてか目を悦ばしむる、この主人と住家と、無常を争ひ去るさま、いはゞ朝顔の露に異ならず、或は露おちて花のこれり、残るといへども朝日に枯れぬ、或は花は萎みて露はなほ消えず、消えずといへども、ゆふべを待つことなし。
方丈記を画いた作
飛田周山筆 『幽居の秋』 第十二回文展出品
伊藤竜涯筆 『方丈記』 第六回帝展出品
(『東洋画題綜覧』金井紫雲)