曽根崎心中

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そねざきしんじゅう Sonezaki Shinju


総合


歌舞伎

浄瑠璃、三段、世話物。元禄16年5月大坂竹本座初演。近松門左衛門作。 世話浄瑠璃の最初の作とされる。。同年曾根崎天神の森で起った、お初徳兵衛の心中事件をもとに、たまたま大坂にきていた近松門左衛門が、書いた作品で、大当りをとり、それまでの竹本座の借金をすべて帳消しにするほどであったと伝えられる。 現在上演される作品は、宇野信夫脚色による作品で昭和28年8月新橋演舞場初演。この作品で、お初を演じた中村扇雀(現 <4>坂田藤十郎)は一気に人気役者となった。

人物関係図

梗概

上の巻

観音廻り

駕籠から出たおはつは、大坂三十三所の観音廻りをする。

生玉社

醤油屋平野屋の手代徳兵衛が得意回りをして、生玉の社に来る。すると出茶屋から、観音廻りをしていた馴染みの天満屋の遊女おはつに呼止められ、恨み言を言われる。平野屋の親方でもある叔父が内儀の姪と徳兵衛とを夫婦にしようとしていた。おはつと懇意の仲であったので、徳兵衛はそれを断る。親方は徳兵衛の継母に銀を渡して内々に結婚を決めてしまうが、徳兵衛はそれでも拒絶したので、激怒した親方から追放される。徳兵衛は継母から銀を取り返したが、友人九兵次の難儀にその銀を貸す。どの銀が待てどもいっこうに返される様子がないなど、一部始終をおはつに語った。 折から、九平次が町衆と一緒にやってきたので、お初と徳兵衛は、九平次に貸した金の催促をする。九平次は借りた銀はないといい、証拠の証文を偽物だといって罵倒する。喧嘩になり、おはつは連れ去られる。徳兵衛は九平次とその仲間大勢から打擲を受け、死ぬ覚悟をすると言い訳をして立ち去る。

中之巻

天満屋

天満屋へかったおはつは徳兵衛の悪口、噂を聞き、心を痛めている。そこへ徳兵衛が忍んでやってくる。おはつは徳兵衛を縁の下に隠す。先の九平次が天満屋にきて徳兵衛の悪口を言いふらすのを聞いて、徳兵衛の気持ちを察し、足で鎮めて死ぬ覚悟を伝える。徳兵衛はおはつの足を首にあてて、おはつの覚悟に答える。九平次はおはつの言葉に気味が悪くなり去る。おはつと徳兵衛は深夜二人で脱出する。

下之巻

道行

徳兵衛とおはつの、曾根崎の天神の森への道行

天神の森

天神の森についた二人は、松と棕櫚の木の間で死のうと決め、たもとの木に帯で体を締め付ける。徳兵衛は震えながらもおはつの喉に脇差しを突き刺し、自分は剃刀で喉を刺して死ぬ。

本文

この世のなごり、夜もなごり、死にに行く身をたとふれば、あだしが原の道の霜、一足づゝに消えて行く、夢の夢こそあはれなれ、あれ数ふれば、暁の、七つの時が六つ鳴りて、残る一つが今生の、鐘の響の聞き納め、寂滅為楽と響くなり。

文楽現行曲 道行き 本文

この世の名残り、夜も名残り。死に行く身をたとふればあだしが原の道の霜。一足づつに消えて行く夢の夢こそ哀れなれ。 あれ数ふれば暁の、七つの時が六つ鳴りて、残る一つが今生の、鐘の響きの聞き納め。寂滅為楽と響くなり。 鐘ばかりかは、草も木も空も名残りと見上ぐれば、雲心なき水の面、北斗は冴えて影うつる星の妹背の天の河。梅田の橋を鵲の橋と契りていつまでも、われとそなたは女夫星。必ず添ふとすがり寄り、二人がなかに降る涙、川の水嵩も勝るべし。 心も空も影暗く、風しん/\と更くる夜半、星が飛びしか稲妻か、死に行く身に肝も冷えて、 「アヽ怖は。いまのはなんの光ぞや」 「ヲヽあれこそ人魂よ。あはれ悲しやいま見しは、二つ連れ飛ぶ人魂よ。まさしうそなたとわしの魂」 「そんなら二人の魂か。はやお互は死にし身か。死んでも二人は一緒ぞ」 と、抱き寄せ肌を寄せ、この世の名残りぞ哀れなる。初は涙を押しぬぐひ、 「ほんに思へば昨日まで、今年の心中善し悪しを余所にいひしが、今日よりはお前もわしも噂の数。まことに今年はこなさんも二十五の厄の年、わしも十九の厄年とて、思ひ合ふたる厄祟り、縁の深さの印かや。未来は一つ蓮ぞ」 と、うちもたれてぞ泣きゐたる。 徳兵衛、初が手を取りて、 「いつはさもあれこの夜半は、せめてしばしば長からで、心も夏の短夜の、明けなばそなたともろともに浮名の種の草双紙。笑はゞ笑へ口さがを、なに憎まうぞ悔やまうぞ。人には知らじわが心。望みの通りそなたとともに一緒に死ぬるこのうれしさ。冥途にござる父母にそなたを逢はせ嫁姑、必ず添ふ」 と、抱きしむれば、初はうれしさ限りなく、 「エヽありがたい忝い。でもこなさんは羨ましい。わしが父さん母さんはまめでこの世の人なれば、いつ逢ふことの情けなや、初が心中取沙汰を明日は定めて聞くであろ、せめて心が通ふなら夢になりとも見て下され。これからこの世の暇乞ひ、懐しの母さまや、名残り惜しやの父さまや」 と、声も惜しまずむせび泣き。 「いつまでかくてあるべきぞ。死におくれては恥の恥。いまが最期ぞ。観念」 と、脇差するりと抜放つ、馴染み重ねて幾年月、いとし可愛としめて寝し、今この肌にこの刃と 思へば弱る切先に、女は目を閉ぢ悪びれず、 「はやう殺して/\」 と、覚悟の顔の美しさ。哀れをさそふ晨朝の、寺の念仏の切回向。 『南無阿弥陀仏、/\/\』 南無阿弥陀仏を迎へにて、哀れこの世の暇乞。長き夢路を曾根崎の、森の雫と散りにけり。



画題

画像(Open)

解説

東洋画題綜覧

近松門左衛門が浄瑠璃で元禄十六年四月七日梅田堤にあつた心中を材料として書卸し、大評判を取つたもの、油屋の手代徳兵衛が蜆川天満屋の遊女お初と馴染を重ねてゐる中、主人の姪に二百貫の金をつけてやらうとの話が持上り、徳兵衛の母が強欲から金を受取り、これから破綻を生じ徳兵衛は義理と人情に迫られてお初と曽根崎で心中する。世に『お初徳兵衛』として人口に膾炙され、浮世絵の好画題となつてゐるが、その中の『道行血死期の霜』が有名である。初句を引く。 此世の名残夜も名残死に行く身を譬ふれば仇しが原の道の霜一足づつに消て行く夢の夢こそ哀れなれ、あれ数ふれば暁の七つの時が六つ鳴りて、残る一つが今生の鐘の響きの聞納め、寂滅為楽と響くなり、鐘ばかりかは草も木も、空も名残と見上ぐれば、雲心なき水の面、北斗は冴えて影映る、星の妹背の天の川、梅田の橋を鵲の橋と契りて何時までも、我とそなたは夫婦星、必ず添ふと縋寄り、二人が中に降る涙、河の水嵩も増るべし。 (『東洋画題綜覧』金井紫雲)