総合
待ち謡(まちうたい)
能の後場の冒頭に、ワキ(またはワキとワキツレ)によって謡われる謡。後シテの登場を促すために謡われるもので、本来の姿で再び現れる後シテを待つといった内容が多いため、このような名称が付けられたらしい。古くは間の謡などとも呼ばれた。
技法的には、謡事小段の上ゲ歌、その中でも一節型の形式を持つ。
道行(みちゆき)
能一曲の中で、旅の過程を表す部分。夢幻能において、ワキが旅をして幽霊や神であるシテにゆかりのある地へ赴く場面がその典型である。基本的には道中の歌枕がちりばめられ、和歌的な修飾がほどこされている。音楽理論的に言うと、[上ゲ歌]と呼ばれる種類の謡事の小段である。たとえば、《敦盛》第1段の[上ゲ歌]がそれに当たる。
「道行」と言っても、必ずしも陸路を表すとは限らず、日本中世の旅の実態を反映して、川・海などの海路を表すことも多い。たとえば《敦盛》の道行「淀・山崎をうち過ぎて。昆陽の池水生田川……」とは、著名な淀川の水路を通った設定になっているものと見られる。
初同(しょどう)
能の一曲の中で、現在、最初に地謡が謡う部分を言う。音楽理論的に言うと、[上ゲ歌]と呼ばれる小段であることが多い。
「初同」という名称は、最初の同音という意味である。地謡を「同音」と呼ぶ場合があるので、このように言う。「《敦盛》の初同は『身の業の……』の部分である」などと用いる。
能の大成者と言われる世阿弥は、その伝書『三道』に、現在「初同」と呼ばれている部分について、「開聞之在所か」と記していて、その曲の謡の最初の聞かせどころと位置付けている。