総合
歌舞劇としての能の母胎
当初の謡い物は、能とは別に作られたものが多い。能の大成期には、季節ごとの祝言の謡など、場に合った縁起物としての謡や、和歌的な言葉を綴った叙情的で美しいメロディを持つ謡、もののいわれや有名な物語を語った叙事的でリズムの面白い曲舞謡など、上層階級の要望に応えるような謡い物が数多く生まれた。そして評判のよい謡い物からは、それを組み入れた舞台芸能としての能の曲が作られるようになる。
能が歌舞劇などと呼ばれるのも、大成期に作られたそのような謡い物が能の本文のまとまった材料になり、前時代より韻文的な詞章が増えたことが大きく関係している。