杜若
かきつばた
画題
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解説
画題辞典
謡曲にして、伊勢物語の業平東下りの中、三河国八橋(やつはし)の記事を基として作りしものなり。旅僧三河国八橋にて杜若の盛りに咲きけるを眺め居たるに、杜若の精現われ我家に旅僧を伴い、冠、唐衣を示して、業平の往時を物語り舞を奏し遂に僧の読経によりて成仏する事を仕組みしものなり。処は三河国八橋、時は四月なり。「ありわらのなりひら」(在原業平)、「なりひらあずまくだり」(業平東下)、「いせものがたり」(伊勢物語)等参照すべし。
(『画題辞典』斎藤隆三)
東洋画題綜覧
謡曲の一、伊勢物語の一節、東国行脚の僧が三河の国八つ橋を過ぎ、杜若の精にあひ、業平の故事を語るを聞く筋で、終りは矢張花の精の成仏となつてゐる、元清の作である、一節を引く。
「のう/\御僧、何しに此沢には休らひ給ひ候ふぞ、「是は諸国一見の者にて候ふが、杜若のおもしろさに詠め居て候ふ、扨ここをば何処と申し候ふぞ、「是こそ三河の国八橋とて杜若の名所なれば、色もしほ濃紫のなべての花のゆかりとも、思ひなぞらへ給はずして、取りわき詠め給へかし、あら心なの旅人やな、「誠に三河の国八橋の杜若は古歌にもよまれけるとなり、何れの歌人の言の葉やらん承りたく候へ、「伊勢物語にいはく、ここを八橋といひけるは水行く河の蜘蛛手なれば、橋を八つ渡せるなり、其沢に杜若のいと面白く咲き乱れたるを、ある人かきつばたといふ五文字を句の上に置きて、旅の心をよめと云ひければ、からころも着つゝなれにし妻しあればはる/゙\来ぬる旅をしぞ思ふ、これ在原の業平の、此杜若をよみし歌なり、「あら面白や扨は此、東のはての国々までも業平は下り給ひけるか、「ことも新しき問事かな、此八橋のここのみか、猶しも心の奥ふかき名所名所の道すがら「国々ところは多けれども、取りわき心の末かけて「思ひわたりし八橋の「三河の沢の杜若「はる/゙\きぬる旅をしぞ、「思ひの色を世に残して、主は昔に業平なれども、かたみの花は「今ここに「在原のあとな隔てそ杜若沢辺の水の浅からず、契りし人も八橋の、くもでに物ぞ思はるゝ、今とても旅人に、昔を語る今日の暮やがて馴れぬる心かな。(下略)
(『東洋画題綜覧』金井紫雲)