鶏
にわとり
画題
画像(Open)
解説
画題辞典
古く鶏を図するもの
羅窓筆野鶏図(浅野侯爵所蔵)、
緒方光琳筆雙鶏図(岩崎男爵所蔵)、
円山応挙筆鶏衝立(京都八阪神社所蔵)、
帝室御物伊藤若沖群鶏図
(『画題辞典』斎藤隆三)
東洋画題綜覧
鶏は家禽として最も古い歴史を有するもので支那では既に三千年前にこれが飼養せられたといひ、日本でも神代の昔から飼はれてゐたこと天の岩戸神話にも現はれて居り欧洲にも古くから伝へられ西班牙辺から漸く中央に分布されたといはれる、その原種は鳥学上野鶏と呼ばれ印度の北東部から中央部、スマトラ、フイリツピン、セレベス地方に分布し、叢や林の中に棲息し植物質や穀類、昆虫類を食してゐる、雄は頭部から頸部の羽が黄金褐色で紅を帯び、背は紫褐色、腹は緑を帯びた黒色で光沢があり、尾も黒く金属性の光彩がある、極めて複雑した色彩を呈してゐるが、雌は褐色を基調とした不鮮明な色彩で雄のやうに美しくない、これが今日のやうに全世界に分布され更に幾百千種の種類を生んだのである、その種類中、芸術に交渉の深いもの二三を挙げる。
大和鶏『しよこく』と呼ばれ、雄は真紅の肉冠と肉垂を有し、頭部は黄白色で腹は黒褐色、金属性の光沢を帯びた尾の鎌羽の上には、白い細羽が蓑のやうに垂れてゐる、雌は背が灰褐色、風切羽や尾羽は褐色、頭には黒い斑がある形がよく、これまで日本画によく画かれてゐる。
烏骨鶏 全身純白で羽毛は絹糸のやうである、そこで絹糸鶏の別名がある、頭は小さく顔は黒く、嘴の上には紫黒色を帯びた円い肉冠がある、此の種は他の鶏と違つて足に五趾を有してゐる、もとアジア東部の産であつたが、支那に多く繁殖し日本へは支那から渡来したものである。
矮鶏 矮鶏には桂矮鶏だの白矮鶏だの蓑引矮鶏だのいろ/\あるが、桂矮鶏は最も親しみが深い、脚が短かく殆んど腹を地につけてゐるやうな姿、朱色の肉冠肉垂に対し黄色の嘴と脚、白色の全身に黒色白線の謡羽、純黒色の尾羽、その調和が実に面白い、白矮鶏は桂に比し、尾羽まで白い処が変つてゐる、蓑引矮鶏は頭羽から上尾筒へかけて紅色を帯びた金茶色、此の上尾筒の羽毛は長く延びて蓑のやうになつてゐる。
長尾鶏 長尾鶏は『さざなみ』と云ひ原産は朝鮮から輸入したものであるといふが、今では土佐特有となつてゐる、その尾羽が長く伸びて五尺から二十尺に達するものがある、蓋し鶏の種類中最も変つたものといへやう、今日では天然紀念物に指定されてゐる。
軍鶏 俗に『しやも』といふ、暹羅国今のタイから渡来したものといふ、併し原産は馬来半島辺であるが、日本に渡来してから形その他総て変化したやうに思はれる、闘鶏用として古から到る処に弄ばれた、性勇敢にして敵手を仆さずむばやまぬ勢ひがあり、絵画にはよく画かれる。
この外交趾と称せられるのは交趾支那から渡来したもの、なほ、『ぶらま』『れぐほん』『みのるか』などいふ欧洲種が盛に渡来し繁殖を図りつゝある。
鶏の名作と称せらるゝものに左の諸点がある。
伊藤若冲筆 『群鶏』双幅 帝室御物
蘿窓筆 『鶏図』 浅野侯爵家蔵
円山応挙筆 『鶏』衝立 京都八坂神社蔵
尾形光琳筆 『鶏』 岩崎男爵家蔵
荒木寛畝筆 『梧桐軍鶏』 荒木十畝氏蔵
竹内栖鳳筆 『蹴合ひ』 聖徳太子奉賛展出品
荒木十畝筆 『軍鶏』 第十一回帝展出品
榊原紫峰筆 『牡丹双鶏』 紫峰画集所載
速水御舟筆 『烏骨鶏』 瓦鶏所載
(『東洋画題綜覧』金井紫雲)