安宅
あたか
画題
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解説
画題辞典
安宅は謡曲の一なり、源義経、兄頼朝と隙を生じ、主従山伏姿に身を変装し、奥州下向に就く。其の途加賀国安宅の関にかゝり、関守の咎むる所となりしを、弁慶が苦計にて白紙の勧進帳を読み、辛うじて虎口を逃るゝ始末を叙せるもの。画書として図せらる。
(『画題辞典』斎藤隆三)
東洋画題綜覧
謡曲の一であり、劇に歌舞伎十八番『勧進帳』がある、義経、兄頼朝と不和となり、奥州に下らんとし作り山伏となり安宅の関に通りかゝるを関守富樫左衛門に咎められ、弁慶の苦計により漸く虎口をのがれ、奥州に落ちてゆく、歌舞伎絵又は能画としてよく画かる、謡曲の一節を引く、
「御急ぎ候ふ程に、是は早安宅の湊に御着きにて候ふ、暫く此所に御休みあらうずるにて候ふ、「如何に弁慶、「御前に候ふ、「唯今旅人の申して通りつる事を聞いてあるか、「いや何とも承らず候ふ、「安宅の湊に新関を立てゝ山伏を堅く撰ぶとこそ申しつれ、「言語道断の御事にて候ふ物かな、扨は御下向と存じて立てたる関と存じ候ふ、 是はゆゆしき御大事にて候ふ、まづ此傍にて暫く御談合あらうずるにて候ふ、「我等が心中には何程の事の候ふべき、唯打ち破つて御通りあれかしと存じ候ふ。「暫く仰せの如く此関一所打ち破つて御通りあらうずるは易き事にて候へども、御出で候はんずる行末が御大事にて候ふ、唯何ともして無異の義が然るべからうずると存じ候ふ、「ともかくも弁慶はからひ候へ、「畏つて候ふ、某急度案じ出だしたる事の候ふ、我等を始めて皆々つくり山伏にて候ふが、何と申しても御姿隠れ御座なく候間、此まゝにては如何と存じ候ふ、恐れ多き申し事にて候へども御篠懸をのけられ、あの強力が負たる笈をそと御肩に置かれ、御笠を深々と召され、如何にもくたびれたる御体にて我等より跡に引きさがつて御通り候はゞ、中々人は思ひもより申すまじきと存じ候ふ、「げに是は尤もにて候ふ、さらば篠懸を取り候へ、「畏つて候ふ、「如何に強力、「御前に候ふ、「笈を持ちて来り候へ、「畏つて候ふ、「汝が笈を御肩に置かるゝ事は、なんぼう冥加もなき事にてはなきか、先づ汝は先へ行き関の様体を見て、誠に山伏を撰ぶか、又左様にもなきか、懇に見て来り候へ、シカ/゙\。「さらば御立あらうずるにて候ふ、実にや紅は園生に植ゑても隠れなし、「強力にはよも目をかけじと、御篠懸を脱ぎ替へて、麻の衣を御身にまとひ、「あの強力が負ひたる笈を、「義経取りて肩にかけ、「笈の上には雨皮形箱取りつけて、「綾管笠にて顔をかくし、金剛杖にすがり、「足痛けなる強力にて、「よろ/\として歩み給ふ御ありさまぞ痛はしき。
(『東洋画題綜覧』金井紫雲)