天岩戸
あまのいわと
画題
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解説
(分類:神話)
画題辞典
「あまのいはと」、詳しくは「あまのいはやと」というべきで、神代記の一事変である。天照大神の代、素盞雄尊無道にして大神の意に叶わず、その横暴益々甚だしきに及び、大神天石屋に入りて出で給わず、是に於て天地暗く万妖一時に発す。八百万の神愁迷し、遂に天安河原(あまのやすかわら)に集り、大神を迎え出さんと議し、天金山の鉄を以て日像の鏡を造り、更に八尺勾瓊の玉(やさかにのたま)、和幣、青和幣、白幣、文布、刀斧、鉄鐸、それぞれに之を備え、天香山の真榊を取り鏡玉を懸け、太玉命之を捧げ、天児屋根命祝詞(のりと)を唱え、長鳴鳥を集めて鳴かしめ、天宇受売命(あめのうずめのみこと)起て歌い舞う。大神即ち怪しみ石戸を開きて之を窺う、手力男神(たぢからおのかみ)即ち石戸を開き、強て之を出し奉り、天児屋根命尻久米縄を引渡して新宮に奉ず、是に於て天地再び光明を仰ぐという。本期開闢の尊むべき一事跡として屡々画かるゝ所である。
(『画題辞典』斎藤隆三)
東洋画題綜覧
天照大神、素盞嗚命の粗暴を憤らせ給ひ天岩戸にかくれさせ給ひ、世は常闇となつたので八百万神々岩戸の前に神集ひ、さま/"\の催をし、大神を誘ふ、『日本書記神代紀』に曰く、
是の後に素盞嗚尊の行為甚だ無状、何となれば天照大神天狭田長田を以て御田と為したまふ、時に素盞嗚尊、春は則ち重播種子〈しきまき〉し、且其の畔を毀つ、秋は則ち天の斑駒を放ち田の中に伏せしむ、復た天照大神新嘗きこしめす時を見て、則ち陰に新宮に放屎る、又天照大神の方に神衣を織りつゝ斎服殿に居しますを見て、則ち天の斑駒を剥ぎて殿の甍を穿ちて投げ納る、是の時に天照大神驚動たまひて梭を以て身を傷ましむ、此に由て発慍まして乃ち天石窟に入りまして磐戸を閉して幽居〈こもりま〉しぬ、故れ六合の内常闇にして昼夜の相代るわきも知らず、時に八十万の神、天安河辺に会合ひて、其の祷るべき方を計らふ、故れ思兼神深く謀り遠く慮りて遂に常世の長鳴鳥を聚めて互に長鳴せしむ、亦手力雄神を以て磐戸の側に立てゝ中臣連の遠祖天児屋命、忌部の遠祖太玉命、天香山の五百箇真坂樹を掘にして、上枝には八坂瓊の五百箇御統〈みすまる〉を懸け、中枝には八咫鏡を懸け、下枝には青和幣〈にぎて〉、白和幣を懸け、相与に祈祷まうす、又猿女君の遠祖天鈿女命、則ち手に茅纒の矟〈ほこ〉を持ち、天石窟戸の前に立たして巧に俳優〈わざをぎ〉す、亦天香山の真坂樹を以て鬘に為し、蘿を以て手繦〈たすき〉)になして火処〈ほところ〉焼〈た〉き、覆槽〈うけ〉置〈ふ〉せ、顕神明之憑〈かむかゝり〉談る、是時に天照大神聞しめして曰く、吾れ比ろ石窟に閉居り、謂ふにまさに豊葦原中国には必ず長夜ゆくらむ、云何ぞ天鈿女命かく唬楽〈えらぎ〉するやとのたまひて、乃ち御手を以て磐戸を細めに開けて窺〈みそな〉はす、時に手力雄神、則ち天照大神の手を承り奉りて引出し奉る。
この天岩戸の変は神代の出来事として画かるゝもの極めて多い。
伊藤竜涯筆 東京養正館壁画
橋本雅邦筆 松宝荘旧蔵
(『東洋画題綜覧』金井紫雲)