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恋合 端唄尽 九重 おほう吉三

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画題: 「恋合 端唄尽」 「九重 おほう吉三」

絵師: 三代目豊国

落款印章: 任好 豊国画(年玉枠)

改印: 申六改

出版年月日:万延元年(1860)六月

出版地: 江戸 (見立)


配役:九重  三代目 岩井粂三郎    おほう吉三  初代 河原崎 権十郎


【翻刻】

主にあふよのたのしみは

つらいつとめも

なんのその親

方さんの目をしのび

人がそしろがどふいおが

ほれたがむりか恋

しらずやかましいあれ/\

みさんせ花に小てふの

ふたりづれ


ぬれてきた文箱にそへし花せうぶ

いとゝいろますむらさきの恋といふ字に身を

ほりきりの水にまかせているわいな


ひとりしてむすびしおびを二人りしてとけてぬる

夜のみじかさはときのむつこといまさらにわかれの

うさにくらぶればあはぬむかしがましじやぞへ


【語彙】

・花せうぶ: アヤメ科の多年草。花色は紫・白・絞りなど品種によって異なる。

・むつこと: 男女閨中の私語。

・うさ: 思いどおりにならなくて心の晴れないこと。つらさ。


(『角川古語大辞典』中川幸彦、岡見正雄、阪倉篤義 角川書店 1942年6月 )

【題材】

「三人吉三廓初買」

別名題《三人吉三巴白浪》、通称《三人吉三》。河竹黙阿弥作。

「お坊吉三」の名は黙阿弥作『網模様燈籠菊桐』またその原拠である講談に見える。一方安森家の息子であるという設定は浄瑠璃『八百屋お七』が吉三郎の父の名を安森源氏兵衛としているのが早く、以後この名は八百屋お七物の多くに引き継がれてきた。また零落した旗本の息子という設定は講談「小堀政談天人娘」からである。

原作には梅暮里谷峨の洒落本《傾城買二筋道》による十三郎の主人木屋文里と吉原の遊女一重との情話がからむ。


(『歌舞伎登場人物事典』古井戸秀夫 白水社 2006年5月) (『歌舞伎事典』 平凡社 1983年11月)

【あらすじ】

吉三と名のる三人の盗賊を活躍させた白浪物。お七まがいに女装したお嬢吉三は、節分の宵大川端で夜鷹のおとせから百両奪い、見とがめたお坊吉三と争いになるが、和尚吉三が中に入って和解、三人は義兄弟の盃を交わし、百両は和尚が預かる。おとせの金は前夜客となった十三郎が落としたものだが、十三郎は紛失したと思って大川へ身を投げたところを、土左衛門伝吉に救われる。おとせは伝吉の娘だが、十三郎も実は伝吉が昔捨てた子で、二人は双生児の兄妹と知らず契っていた。本所割下水の貧家でこれを悟った伝吉は、因果のおそろしさにおののく。和尚も伝吉の子で、預かった百両を不孝の詫びにと伝吉へ持っていくが、伝吉はかえってこの金のためお坊に殺される。お嬢とお坊に捕手が迫ると、和尚は因果をふくめておとせと十三郎を殺して身替りにする。が、ついに囲まれ、本郷の櫓の下で、雪のふりしきる中に三人刺しちがえて死ぬ。


(『歌舞伎事典』 平凡社 1983年11月)

【登場人物】

九重…新吉原丁子屋の遊女で、おほう吉三の妹・一重の姉女郎。

おほう吉三…もとは旗本安森家の息子で、その育ちからお坊(坊ちゃん)渾名された。お譲吉三が夜鷹から奪った百両の金に目をつけて争いを起こす。


(『歌舞伎登場人物事典』古井戸秀夫 白水社 2006年5月)

【配役】

九重・・・三代目岩井粂三郎 文政12(1829)年10月2日~明治15(1882)年2月19日享年54歳

7代目岩井半四郎の子。母は4代目瀬川菊之丞の次女にあたる。はじめ子役として岩井久次郎と名乗り江戸の舞台に勤めていたが、天保3(1832)年3代目粂三郎と改める。この時、祖父の5代目半四郎が杜若を、また伯父の2代目粂三郎が6代目半四郎をそれぞれ名乗る。父は紫若と名乗って上方に巡業中だった。7年4月伯父の6代目半四郎が没す。弘化2年4月父が没し、4年4月祖父が没す。文久3(1863)年11月中村座で2代目紫若と改める。明治5(1872)年8代目半四郎を襲名する。15年正月発病し、2月死去。幕末から明治初期の若女方の名優であった。

おほう吉三・・初代河原崎権十郎 天保9年10月2日(1838)~明治36(1903)年9月13日享年66歳

7代目市川団十郎(のち5代目海老蔵)・母ための5男として江戸堺町に生まれる。初め河原崎長十郎と名乗り、嘉永5年9月権十郎と改める。明治2年3月、7代目河原崎権之助を襲名し、7年7月9代目市川団十郎を襲名。静養中の36年9月13日、急性肺浸潤に尿毒症を併発して死去。お家芸を本領として、時代物・世話物に適し、立役・敵役・女方を兼ねた。風采がよく、口上・台詞もしっかりして風格があり、非常に人気が高く不世出の大役者と持て囃された。


(『新訂増補歌舞伎人名事典』野島寿三郎 日外アソシエーツ 2002年6月)

【台本】

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《第一番目 三幕目 化粧坂丁子屋の場》

吉野 このマァ、吉三さんは、いつまで寝なんすのだらう。

     ト、言ひながら、屏風を開ける。床の上に吉三、中月代、女郎の胴抜き形にて、煙草を飲みゐる。

お坊 箆棒め。海鹿ぢゃァあるめへし、寝てばかりゐるものか。

吉野 起きてゐなましたか。

     ト、吉三の傍へ来る。


吉野 ほんに、文里さんには誰でも。

お坊 それぢゃァ手前も惚れてゐるか。

吉野 アイ、惚れてゐるよ。

お坊 あの文里に。

吉野 いえ、お前にさ。

     ト、傍へ寄るを、突きのけ、

お坊 おきやァがれ。

     ト、煙管を取る。吉野、これを引き取る。


《第二番目 序幕 同丁子屋二階の場》

吉野 苦労するのも、苦界の楽しみ。

お坊 やつぱり手前と己のやうなものよ。

吉野 ほんに、さうでありますねへ。

お坊 思へばどうした悪縁か。

吉野 ほんに、久しい仲でござんす。

     ト、吉野、吉三に寄り添ふ。



(『新潮日本古典集成 三人吉三廓初買』今尾哲也 1984年 新潮社)

【まとめ】

今回担当した「恋合 端唄尽」 「九重 おほう吉三」 では、九重が三代目 岩井粂三郎、おほう吉三が初代 河原崎 権十郎として描かれているが、実際にこの配役では上演されておらず、これは見立て絵であることがわかった。

さらに台本を確認したところ、実際に九重とおほう吉三が会っているシーンなど、二人の関係が伺える場面は見当たらないこともわかった。 そこで、三人吉三において、おほう吉三が吉原の丁子屋を訪れている場面をすべて確認していったところ、おほう吉三は吉野という遊女の昔からの馴染み客であることがわかってきた。

この三人吉三が上演された当時に出版された正写の一部の絵において、吉三が胴抜きを羽織りながら煙管を持ち、吉野と一緒に部屋にいる場面が描かれている。この場面は台本の部分において既述した場面に当たると考えられる。

岩井粂三郎が吉野を演じたわけでもなく、九重を演じたのも岩井粂三郎ではない。このことを考えても、この「恋合 端唄尽」 「九重 おほう吉三」において、なぜ九重が選ばれて描かれたのか、そしてそれがなぜ岩井粂三郎として描かれたのかは不明である。

【参考文献】

『新潮日本古典集成 三人吉三廓初買』今尾哲也 1984年 新潮社

『新訂増補歌舞伎人名事典』野島寿三郎 日外アソシエーツ 2002年6月

『歌舞伎登場人物事典』古井戸秀夫 白水社 2006年5月

『歌舞伎事典』 平凡社 1983年11月

『角川古語大辞典』中川幸彦、岡見正雄、阪倉篤義 角川書店 1942年6月