馬郎婦観音
ばろうふかんおん
画題
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解説
画題辞典
三十三観音の一にして婦女の形相をなし給へる観音なり、唐の憲宗皇帝の元和年中峡谷の地に仏法未だ開けす観音菩薩は之を化せんとし一美女に化し金沙灘頭に魚藍を提げて現はる、峡谷の少年愛慕して之れが配たらんとす、美女能く経に誦するものに嫁せんといふ、時に普門品金剛経を調するものゝありしも法華経を誦するもの馬氏の郎一人なり、因つて終に馬郎の婦となる、然るに婚礼の夜美女忽に歿す、驚き悲しみて之を葬る。数日にして一老僧あり来りて馬氏に美女の来由を語る、馬氏驚き墓を発くに肉は化して黄金の骨たり、老僧錫を以て骨を挑みて衆に語つて曰く汝等克く思念して苦海に陥る勿れと言終つて空に飛翔して去る、此より峡谷仏を信ずるもの多しと、泉粲和尚賛して曰く、
丰姿窃鬢髪顔斜、賺殺郎粛諦法華、一把骨頭挑去後、不知明月落誰
家李龍眠筆(井上侯爵所蔵)
伝胡正夫筆(浅野侯爵所蔵)
(『画題辞典』斎藤隆三)
東洋画題綜覧
緊那羅身 鹿馬頭の面、音声器を執持し人身で裸形である。美女の形相で唐の憲宗皇帝の元和年中に出現すと『後素集』に曰く
唐憲宗元和中、馬郎婦不知出処、方唐隆盛仏教蔑聞三宝之名、不識為善儀則、婦憐其憨乃之其所、人見少婦単子風韻超然姿貌都雅幸其無侍衛、無羈属欲求為眷、我無父母、又鮮兄弟、亦欲有帰、然不好世財、但有聡明賢善男子能誦得我所持経、則吾願事之、男子衆争求観之、婦授以普門品曰、能一夕通此則帰之、至明発誦徹者二十余輩、婦曰、女子一身家世貞潔豈以一人而配若等耶、可運別誦、因授金剛般若、所約如故、至且通者猶十数、婦要授以法華経七軸、約三日、通徹此者定配之、至期独馬氏得通、婦曰、君既能過衆人、可白汝父母具媒灼娉礼、然後可以姻、蓋生人之大節豈同猥巷不撿者乎、馬氏如約具礼迎之、方至而婦謂云、適以応接体中不佳、且別室俟少安、与君相見未晩也、馬氏喜頓之他房、客未散而婦命終、已而壊爛顧無如之何、遂卜地葬之、未数日有先僧、紫伽黍姿貌古野伏錫来儀自謂、女子之親詣馬氏、問其処由、馬氏引至葬処随観者甚衆、僧以錫撥開見其尸、已化唯金鎖子骨、僧就河浴之挑於錫上、謂衆曰、此聖者憫汝等障重纒愛故垂方便、化汝宜思善因免随苦海忽然飛空而去、衆見悲泣瞻拝、自是陝右奉仏者衆、由婦之化也。 (仏祖通載十五)
僧問如何是清浄法身、師曰、金沙灘頭馬郎婦。 (五灯会元)
此の馬郎婦観音を画いたものに左の作がある。
李竜眠筆 井上侯爵家旧蔵
伝胡直夫筆 浅野侯爵家蔵
近く第五回帝展に野田九浦の『金沙灘頭の美女』がある。
(『東洋画題綜覧』金井紫雲)
かんのん「観音」の項を見よ。
(『東洋画題綜覧』金井紫雲)