雲林院
総合
・作者
作詞者・作曲者ともに不明である。だが「申楽談儀」によれば、金剛権守が演じたことがあり、また田楽の亀阿弥もこの能のワキを演じた記事が見え、古い能の一つである。
・能柄
夢幻能。怪士物の妄執物であろう。四番目物。(現在の形は中将物の遊舞物。序ノ舞物)
・素材
(一)夢中の人物から秘伝を受ける話(多くある)
(二)業平と二条の后の恋物語(伊勢物語・その俗解)
(三)武蔵野すなわち春日野などという口伝(知顕集等の秘注)
(四)花の枝を折る折らせぬの争い(しばしば用いる題材)
(出典:『謡曲集 上』(日本古典文学大系))うりんいん
画題
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解説
画題辞典
謡曲にして、摂津国蘆屋の住人公光と云う者、日頃より伊勢物語を愛翫せしに、或る夜の夢に京に上りて、雲林院に詣でしに、在原業平の霊一老翁となりて現われ、公光のまどろみし間に真の業平となり、伊勢物語語りつゝ舞を奏する事を仕組みしものなり。処は京都北山、季は二月なり。
(『画題辞典』斎藤隆三)
東洋画題綜覧
謡曲の名、摂津の国芦屋の里に佳む公光といふもの、幼い時から伊勢物語を読み耽つてゐたことから、つひに夢にまで業平を見、その夢によつて遥々と都に上り雲林院で、一人の老翁にあひ、その言葉に従つてまどろむと老翁は業平の霊となり、ありし昔の伊勢物語をし、果ては舞ひながら消えてゆく、前シテは老翁、後シテは業平、ワキが公光である。
「そも/\此物語はいかなる人の何事によつて、「思ひの露と染めけるぞと、云ひけんも理なり、「まづは弘徽殿の細殿に、人目を深く忍び、「心の下簾の、つれ/゙\と人はたゝずめば我も花に心を染みて、共にあくがれ立ち出づる、「二月や、まだ宵なれど月は入り、我等は出づる恋路かな、そも/\日の本の、内に名所と云ふ事は、我大内にあり、彼遍昭が連ねし、花の散り積もる、芥川をうち渡り、思ひ知らずも迷ひ行く、かづける衣は紅葉襲、緋の袴踏みしだき、誘ひ出づるやまめ男、紫の一本ゆひの藤袴、しをるゝ裾をかい取りて、「信濃路や、国原しげる木賊色の、狩衣の袂を、冠り巾子にうちかづき、忍ひ出づるや二月の黄昏月もはや入りて、いとゞ朧夜に、降るは春雨か、落つるは涙かと袖うち払ひ裾を取り、しを/\すご/\とたとり/\も迷ひ行く。
(『東洋画題綜覧』金井紫雲)