鉄輪

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かなわ


画題

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解説

画題辞典

鉄輪は謡曲の一にして、夫に捨てられし女の嫉妬の一念凝って、貴船明神に祈り、鬼となりて夫を取り殺さんとせしを、安倍晴明に祈り伏せられて、立ち去ることを叙せるものなり。本と太平記の記事に出でたり、かなわとは鬼神となるべき姿の「身には赤き衣を着、顔には丹を塗り、頭には鉄輪を戴き、三つの足に火を燈す」というより来れることなり。(『画題辞典』斎藤隆三)

東洋画題綜覧

謡曲の一、夫に捨てられた女の嫉妬の一念凝つて夫を取り殺さうとするを、安倍晴明に祈り伏せられて立去る筋、元清の作であるが出所は『太平記』である。

嵯峨天皇の御宇にある公卿の息女、あまりに嫉妬深くして、貴船の社に詣でつゝ七日籠りて申すやう、帰命頂礼貴船大明神、願くは七日籠りたるしるしには、我を生きながら鬼神に為してたび給へ、ねたましと思ひつる女とり殺さんとぞ祈りける、明神あはれとや思しけん誠に申すところ不便なり、まことに鬼になりたくば、姿を改めて宇治の川瀬に行きて三七日ひたれと示現あり、女房喜びて都に帰り人なき所に籠りて長なる髪を五つに分け角にぞ作りける、顔に朱をさし身には丹を塗り、鉄輪をいたゞき三つの足には松を灯し松明をこしらへて両方に火をつけて口にくはへつゝ夜ふけ人静まりて後、大和大路へはしり出で南をさして行きければ、頭より五つの人もえあがり眉ふとくかね黒にして面あかく、身も赤ければ、さながら鬼形に異ならず云々

とあるに基いたもの、シテは女、ワキは安倍晴明、ツレは夫、狂言は貴船社人、処は京師その一節を引く。

如何に申すべき事の候ふ、御身は都より丑の時参り召さるゝ御方にて渡り候ふか、今夜御身の上を御夢想に蒙つて候ふ、御申し有る事ははや叶ひて候ふ、鬼になりたきとの御願にて候ふ程に、我屋へ御帰りあつて、身には赤き衣を着、顔には丹を塗り頭には鉄輪を戴き三つの足に火を灯し怒る心を持つならば、忽ち鬼神と御なりあらうずるとの御告にて候ふ、急ぎ御帰りありて告の如く召され候へ、なんぼう奇特なる御告にて御座候ふぞ、「是は思ひもよらぬ仰せにて候ふ、妾が事にては有るまじく候ふ、定めて人違にて候ふべし、「いや/\しかとあらたまる御夢想にて候ふ程に御身の上にて候ふぞ、かやうに申す内に何とやらん恐ろしく見え給ひて候ふ、急ぎ御帰り候へ「是は不思議の御告かな、先々我屋に帰りつゝ夢想の如くなるべしと、「いふより早く色変はり、気色変じて今までは美女の形と見えつる、緑の髪は空ざまに立つや黒雲の雨降り風と鳴る神も、思ふ中をば避けられし恨みの思を為て人に思ひ知らせん。憂き人に思ひ知らせん。

此の丑時参りの姿の凄みが絵に画かれて興をひくのである。能画としても行はる。

(『東洋画題綜覧』金井紫雲)