野分

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のわき


画題

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解説

画題辞典

一。野分きは秋冬の頃吹き荒む暴風のことなり、野の草木を吹き分くるという意味よりかくはいうなり。

二。源氏物語の一章に野分あり、源氏の御子夕桐の大将未だ中将にて御坐すが、かの雲井の雁と詠みし姫君のこと深く心にかけ、野分の風のとふらひに妹明石の腹の姫君の元へ参り雲井のかたへ

風さわぐ村雲まよふ夕べにも わするゝまなくわすれぬは君

扨また源氏の君も野分の朝、風のとふらひとて明石の方ヘおはして早や早やと帰られしかば、明石のかた琴かきならし

おほかたに萩の葉すぐる風の音も 我身一つにしむ心地して

とめりしとなり。

亦源氏絵とて図せらるゝこと少しとせず。

(『画題辞典』斎藤隆三)

東洋画題綜覧

(一)野草を吹き分くる意、野分の風の略、秋の際に吹く疾風の名。  (大言海)

萩の葉にかはりしかぜの秋のこゑやかて野分のつゆくたくなり  藤原定家

ふきすさむ野分のそらの雲間よりあらはれわたる有明の月   (夫木抄)民部卿為家

野分は蕭条たる秋の一風景として画かるゝもの多く、近く左の諸作がある。

加藤君鳳筆  第六回文展出品

織田観潮筆  第十一回文展出品

榊原縫子筆  第八回帝展出品

(二)『源氏物語』五十四帖の中、光源氏の君三十七歳の八月のことを書いてゐる、帖の名は、その巻の初めに描かれた六条院の秋の末、野分の吹きすさんだ庭のさまから来てゐるが、物語の骨子は、源氏の息夕霧の中将が妻戸の隙から紫上を垣間見、思を寄せるところにあり、また源氏は野分の朝、明石の方をおとづれる、明石の方は琴を弾じて、源氏のすげなく帰るわびしい心を慰める。野分の条左に

野分、例の年よりもおどろ/\しく、空の色変りて吹さ出づ、花どものしほるゝを、いとさしも思ひしまぬ人だに、あなわりなと思ひさわがるゝを、まして叢の露の玉の緒乱るゝまゝに御心惑ひもしぬべくおぼしたり、おほふばかりの袖は秋の空にしもこそほしげなれ、暮れ行くまゝ物も見えず、吹き迷はしていとむくつけゝれど、御格子などまゐりぬるに、後めたくいみじと花のうへを思し歎く、南のおとゞにも前栽つくろはせ給ひける折にしも、かく吹き出でてもとあらの小萩、はしたなく待ちえたる風の気色なり、をれかへり露もとまるまじう吹き散すを、少し端近うて見給ふ、大臣は姫君の御方におはします程に、中将の君参り給ひて、東の渡殿の小障子のかみより妻戸開きたるひまを、何心もなく見入れ給へるに女房数多見ゆれば、立ちどまりて、音もせで見る。

野分は源氏絵として多く画かれる中に、近くは帝展第三回に吉村忠夫筆『野分の朝』がある。

(『東洋画題綜覧』金井紫雲)