謡本

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総合

うたいぼん。

音曲芸能としてのうたいを書き留めた譜本のことで、広い意味での能の脚本の一種である。本来は、舞台芸能としての演劇的な能の脚本ではなく、音曲芸能としての謡のための譜本であった。

謡本は、プロも愛好者も用いるものであり、謡の稽古けいこの教本としてだけでなく、特に愛好者には、能を鑑賞する際に手元に置くガイドブック的な上演脚本としても活用され、上演形態としての能を稽古する際の脚本としても使われる。

現在では、シテ方してかた各流派から刊行されている市販の謡本が一般的である。

謡本に示される情報には、本によっては数多くの種類があるが、その中で最も基本的なのは、詞章ししょう(謡の言葉)・節付ふしづけ謡の音曲面の注記)、及び役名注記(それぞれの部分の謡がどの役によって謡われるかを示す注記)である。

歴史

謡は、舞台芸能としての能のシナリオでもあるが、演者が舞台に立つ上演形態の能のうとは別に、装束を着けずに座って行われる上演形態としての謡うたいが役者によって謡われ、鑑賞者がそれを聞き味わうことが、能の大成期(室町時代初期)から行われていた。

謡本は、本来はプロの演者が使う譜本だったが、室町中期頃からは一般の人々も謡を稽古するようになり、その教本として謡本が書き写され、その後版本として刊行されるようにもなって、世に広まった。現在に伝わる謡本の大半は、素人や半玄人向けのものである。

近代に入るまでは、一部の武将・大名や半玄人的な人物を除いて、専門の血統を継ぐプロ以外の人物が装束を着け能を演じることはなかった。一般の人々の多くは、謡を稽古したり、美しい謡本を手にすることによって、能に親しんだのである。江戸時代には、能が

式楽しきがく(幕府の公式の芸能)となったこともあって、謡本は数多く出版され、様々な出版物の中でも、代表的な一ジャンルを占めるようになる。

近代に入り、身分制度が解消されると、一般の人々が能を鑑賞し、素人として舞台に立つ機会が増えた。それにともなって謡本の用途も広がる。謡の稽古の教本としてだけでなく、能を鑑賞する際に手元に置く上演台本としても活用され、能を稽古する素人の台本としても使われるようになった。

このように謡本は、現代に至るまで、プロの上演と一般の人々とをつなぐ、大事な架け橋としての役割を担い続けているのである。