胡蝶

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こちょう


画題

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解説

画題辞典

胡蝶は源氏物語の一巻なり。六条の御息所の姫君なる梅壺の女御、当時の習わしとて、六条院にて仁王経大般若読経の大法会行ひ王ふ。紫の上も仏に花奉るとて、梅壺中宮の方へ童を鳥蝶の姿に作らしめ、八人ほど出立たす。鳥には白銀の瓶に桜の花、蝶には黄金の瓶に山吹の花さして花園に参らすとなり。源氏絵の一として古来画かるゝ多し。

(『画題辞典』斎藤隆三)

東洋画題綜覧

(一)蝶蛾類に属する昆虫、ちょう「」に同じ、その項を見よ。 (二)源氏物語の一、全巻中最も華麗を極めたる巻である、筋は中宮の御読経の始めの日、当時の慣はしとて中々に荘厳を極め、その式場である六条院には六条御息所の姫君梅壷、中宮の方へ童を鳥蝶の姿に粧はせて八人ほど出立たすのである、一節を引く。

今日は中宮の御読経のはじめなりけり、やがて罷出給はで、やすみ所とりつゝ日の御よそひにかへ給ふ人々も多かり、障あるは罷出などもし給ふ、午の時ばかりに皆あなたに参り給ふ、大臣の君を初め奉りて、皆着きわたり給ふ、殿上人なども残りなく参る、多くは大臣の御威勢にもてなされ給ひて、やんごとなきうつくしき御有様なり、君の上が御志に、仏に花奉らせ給ふ、鳥蝶にさうぞきわけたる童部八人、容貌など殊に整へさせ給ひて、鳥には銀の花瓶に桜をさし、蝶は金の瓶に山吹を同じき花の房もいかめし、世になきにほひを尽させ給へり、南の御前の山隙より漕ぎ出でゝ、御前に出づるほど、風吹きて瓶の桜少しうち散りまがふ、いとうらゝかに晴れて霞の間より立ち出でたるは、いと哀になまめきて見ゆ、わざと平張などもうつされず、御前に渡れる廊下を楽屋のさまにして、仮に胡座どもめしたり、童部ども御階のもとによりて、花ども奉る、ぎやうかうの人々とりつぎて、閼伽に加へさせ給ふ、御消息、殿の中将の君して聞え給へり。

花ぞのゝこてふをさへやした草に秋まつむしはうとく見るらん。

此の巻は源氏絵として画かるゝもの殊に多く、絢爛を極めてゐる。

(三)謡曲の番名、信光の作、諸国一見の族僧が花の都の名所めぐりして一条大宮に里の女、実は胡蝶の精に逢ふ、胡蝶の精は僧から間はるゝまゝに梅に縁りのないのを喞つ、やがて妙典の功徳によつて、胡蝶となつて現はれ梅花に戯むれ、やがて明け行く雲に羽うちかはして霞に失せる。前シテは里の女、後シテが胡蝶、ワキが旅僧である。一節を引く。

「実にや色に染み、花に馴れゆくあだし身ははかなき物を花に飛ぶ、胡蝶の夢の戯むれなり、「されば春夏秋を経て、「草木の花に戯むるゝ、胡蝶と生まれて花にのみ、契を結ぶ身にしあれども、梅花に縁なき身を歎き、姿を替へて御僧に詞をかはし奉り、「妙なる法の蓮葉の「花の台を頼むなり、「伝へ聞く唐土の、荘子があだに見し夢の、胡蝶の姿現なき、浮世の中ぞ哀れなる、定めなき世と言ひながら、官位も陰高き、光源氏のいにしへも、胡蝶の舞人色々の御舟に飾る金銀の、瓶にさす山吹の襲の衣を懸け給ふ、「花園の胡蝶をさへや下草に「秋待つ虫は疎く見るらんと詠めこし、昔語りを夕暮の月もさし入る宮の内、人目稀なる木の本に、宿らせ給へ我が姿、必ず夢に見ゆべしと、夕ベの空に消えて夢の如くになりにけり

(『東洋画題綜覧』金井紫雲)