海士

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海士(あま)

五番目物・女菩薩物


あらすじ

 大臣藤原房前は、母が讃岐・志度の海人だと知り追善の為その地を訪れる。そしてそこにいた一人の海人から母の話を聞くこととなる。その昔、唐から氏寺の興福寺へ三種の宝が送られることとなったが、その内の一つ面向不背の珠が途中で竜神に奪われた。それを取り戻しに来た藤原不比等(淡海)は契りを交わした海人に、宝珠を取り戻せたら二人の間の子を藤原家の世継ぎにすると約束をする。海人は自分の腰に縄をつけ、竜宮へ飛び込み宝珠を盗み、乳の下を切り裂き珠を押し込め、血を流しながらも海龍たちから逃げ切り、戻った。この経緯を語った海人は、自分こそが房前の母だと名乗り、海へ消えていった。

 母の話を聞いた房前は追善供養を行なうと、龍女となり法華経を手にした母の霊が現れ、成仏の喜びを舞にして表し、志度寺建立の因縁を語る。

場面解説

 後場のクライマックス、シテ龍女が子方の大臣藤原房前に法華経を手渡す場面である。前場では、海女が生死をかけて竜宮に玉を取りに行く「玉之段」、「これこそ御身の母海士人の幽霊よ」と素性を明かす「クドキ」、そして後場では、龍女となった姿で舞う盤渉早舞(ばんしきはやまい)と、本曲は見せ場の多い作品である。特に後場は、成仏後の姿であることからも、仏教色が色濃くなる。したがって、後シテが登場時から手にしている法華経は象徴的であるともいえよう。これを子方演じる息子に手渡すところは、後場最大の見せ場となっている。また、本作品におけるシテは、黒頭を着けている。通常は黒垂と呼ばれる直毛垂髪の鬘を着けるが、本作品の演能においては、龍女の女性的な側面ではなく、異形の体の側面を強調した演出だったことを物語る。

 面は通常と同様の「泥眼」であろうが、黒頭との組み合わせによって、女性的な体を残しながらも、異形の印象も与えることができる。 


画題

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解説

東洋画題綜覧

謡曲の名、元清の作、藤原房前の母は讃州の海人であるが、その家系の委しく知れないのを悲しみ、房前は生長の後母の故郷を訪ひ幽霊に逢ふ筋で、大織冠鎌足が明珠を竜宮に奪はれたのを房前の母の海女が海底に入り竜宮から珠を取返す物語が骨子となつてゐる、前シテが海人女、後シテは竜女、ツレ房前大臣、ワキは従者、処は讃岐である。一節を引く、

「とてもの事に彼玉を潜ぎあげし所を御前にこそと学うで御目にかけ候へ、「さらばそと学うで御目にかけ候ふべし、其時海士人申すやう、もし此玉を取り得たらば、此御子を世継の御位になし給へと申ししかば子細あらじと領掌し給ふ、さては我子ゆゑに捨てん命露ほども惜しからじと、千尋の縄を腰につけ、もし此玉を取りえたらば此縄を動かすべし、其時人々力をそへ、引きあげ給へと約束し、一つの利剣を抜きもつて、「かの海底に飛びいれば、空は一つに雲の波煙の波をしのぎつゝ、海漫々と分け入りて直下と見れども底もなく、ほとりも知らぬ海底に、そも神変はいざ知らず、取りえん事は不定なり、かくて竜宮にいたりて宮中を見れば、その高さ三十丈の玉塔に、かの珠をこめおき、香華を供へ守護神は、八竜並み居たり、共外悪魚鰐の口、のがれがたしや我命、さすが恩愛の故郷のかたぞ恋しき。

で所謂玉取りとして名高く、朝桜楼国芳其他浮世絵に画かるゝもの多い。

(『東洋画題綜覧』金井紫雲)