楠木正成

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くすのきまさしげ


画題

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解説

前賢故実

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(『前賢故実』)

東洋画題綜覧

南朝の大忠臣、幼名多聞丸といひ橘諸兄の後裔で父を正康と呼んだ、河内の人、元弘元年後醍醐天皇、北条高時の兵を避けて笠置に行幸さる、未だ四方に勤王の志あるもの少く、天皇之を憂ひ賜ふ、適々御夢に、紫宸殿の前庭に一大樹あつて南枝最も栄え、樹下に南面の座を設け百官列す、時に二童子来り跪き、普天の下聖体を容るゝ所なし、唯此座のみと泣奏すると見給ふて覚め、これを占ひ意ふに楠木氏といふものあつて、再び朕を南面に王たらしむるかと、寺僧快元を召して問ふ、快元ここに於て正成のことを以て奉答した、天皇正成を召して天下のことを托し給ふ、正成聖旨を奉じ、先づ城を赤坂に築き兵五百を以て守る、鎌倉の将大仏貞直兵三十万を以て来り攻む、正成屡々奇計を以て之を敗る、敵軍、敵することの出来ぬを悟り遠く城を囲んで糧道を断つ、城中糧全く尽きたので、正成は火を城に放ち金剛山に遁れた、北条仲時は湯浅定仏をして赤坂を守らしめたが、二年の夏正成之を攻めて降し、ここに官軍大に振つた、尋で金剛山に還り、千剣破に築城して之に拠つた、翌春、北条氏の軍、吉野赤坂を陥れた勢に乗じ来り攻む、正成策を施して拒ぎ戦ふ、敵懼をなして敢て攻めず持久の計を策す、正威即ち稿人形数十を排列して敵を誘ひ或は炬火を投げ、油を灌ぎ善く戦ふ、会々近郡の民兵護良親王の令旨を奉じ敵の糧道を絶つたので敵は遂に囲を解て敗走した、ここに於て聖駕京都に還る、建武元年正成は功により検非違使左衛門尉兼河内守を授けられ、摂津河内和泉の守護となり、河内大夫判官と称し記録所寄人となる、二年新田義貞、東して足利尊氏を討つや正成は諸将と共に留りて京師を守護す、延元元年尊氏叛して宮闕を犯すや、正成は義貞等と防戦して大に之を破り、尊氏は僅かに身を以て遁れ、弟道冬と共に西海に走つた、同年の夏、尊氏西国の兵を率ゐて捲土重来し、海陸呼応して京師に向ふ、義貞は之を兵庫に防ぎ、正成また詔を奉じて義貞を援け、進んで湊川に陣した、既にして尊氏の先鋒細川定禅、舟師を率ゐて紺辺に上陸せんとした、義貞大に之と戦ふ、一方尊氏の軍は既に兵庫に上陸したので、正成は弟正季を顧み、我が軍既に敵に囲まれまた計の施すべきやうもないと、即ち縦横奮撃して直義の軍と戦ひ、既に直義を討たんとしたが之を逸し身また十数創を負つたので、死を決し正季と共に七生報国を誓ひ、民家に入り正季と刺違へて死す、一族十三人、残兵六十余人是に殉じた、天皇追悼已まず正三位左近衛中将を贈り、明治に至り更に従一位を追贈さる。  (国史大辞典)

正成の生涯は波瀾重畳、その赤坂城の奇計千剣破の奮戦、湊川の最期等皆壮烈鬼神を泣かしめ、合戦絵として描かれるが、その最も有名なるは桜井駅に於ける正行との訣別で、『太平記』これを詳説す。曰く

正成是を最期の合戦と思ひければ、嫡子正行が今年十一歳にて供したりけるを、思ふ様ありとて、桜井の宿より河内へ返し遣すとて庭訓を残しけるは、獅子子を産みて三日を経る時、数千丈の石壁より是を擲つ、其子獅子の機分あれば教へざるに中より跳返りて死する事を得ずといへり、況んや汝已に十歳に余りぬ、一言耳に留らば我教誡に違ふ事なかれ、今度の合戦天下の安否と思ふ間、今生にて汝の顔を見んこと、是を限りと思ふなり、正成已に討死すと聞きなば、天下は必ず将軍の代に成りぬと心得ベし、然りといへども一旦の身命を助らん為めに多年の忠烈を失ひて降人に出づる事あるべからず、一族若党の一人も死残りてあらん程は金剛山の辺に引籠りて、敵寄せ来らば、命を養由が矢さきに懸けて、義を紀信が忠に比すべし、是を汝が第一の孝行ならんずると泣々申し含めて各々東西へ別れにけり、昔の百里奚は、穆公晋の国を伐ちし時、戦の利なからん事を鑑みて其将孟明視に向ひて今を限りの別を悲しみ、今の楠判官は敵軍都の西に近づくと聞きしより、国必らず、滅びんことを愁へて、其子正行を留めてなき跡までの義を進む、彼は異国の良弼、是は我朝の忠臣、時千載を隔つといへども前聖後聖一揆にして有難かりし賢佐なり。  (太平記十六)

楠木正成を画くもの極めて多い、主なものを左に掲げる。

狩野探幽筆 朱舜水賛       前田侯爵家蔵

狩野常信筆 藤房卿双幅      池田侯爵家蔵

冷泉為恭筆            松本双軒庵旧蔵

住吉広行筆 『桜井駅』      藤田男爵家旧蔵

土佐光起筆 藤房義貞(三幅対)  浅田家旧蔵

与謝蕪村筆 藤房双幅       東京帝室博物館蔵

狩野安信筆 正季正行(三幅対)  池田侯爵家旧蔵

横山大観筆 『楠公像』      湊川神社蔵

下村観山筆 『楠公』       第八回院展出品

小堀鞆音筆            小堀家蔵

(『東洋画題綜覧』金井紫雲)